2008年01月22日

アセットアロケーションはどれほど重要か? 20年の議論の軌跡

アセットアロケーションの重要さを示した最初の論文「Determinants Of Portfolio Performance」の発表から約20年。その間、専門家たちのあいだではこの論文の結論をめぐって反論や検証が行われ、議論を積み重ねてきています。

いまでは、多くの専門家が当然のようにアセットアロケーションの重要性を説くようになりました。

その重要性についての最初の学術的な分析による論文が、これまでのエントリを続けて読んできた方ならご存じの通り、1986年にブリンソン、フッド、ビーバウワー(Gary P. Brinson, L. Randolph Hood, and Gilbert L. Beebower)がFinancial Analysts Journalで発表した論文「Determinants Of Portfolio Performance」(ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因)です。

この歴史的な論文の結論が“ポートフォリオのリターンの93.6%がアセットアロケーションによるもの”です。アセットアロケーションの重要性を数字で、しかも圧倒的な割合で示した点は、大きな衝撃を持って迎えられたのではないでしょうか。

そして、これがアセットアロケーションの重要性をめぐる本格的な議論の始まりでもありました。その流れを見ていくことにしましょう。

ちなみにこの論文、タイトルが長いために著者のBrinson、Hood、Beebowerの頭文字をとって“BHB study”とも呼ばれているようです。

5年後の1991年には、そのBHB studyのアップデート版となる「Determinants Of Portfolio Performance II: An Update」(ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因II:アップデート)が、ブリンソン、シンガー、ビーバウワー(Gary P. Brinson, Brian D. Singer, Gilbert L. Beebower)によって発表されました。

アップデート版では調査期間を1977年から1987年へとより新しい時期に変更し、分析方法を改善するなどしています。その結果、“リターンにおける変動量の91.5%がアセットアロケーションによって説明される”という結論となりました。BHB studyよりも控えめな数字になったとはいえ、やはりポートフォリオのリターンの90%以上はアセットアロケーションによって決まるという結論は、アセットアロケーション重要説を引き続き補強するものでした。

さて、BHB studyへの反論としてよく知られているのが、1997年に発表されたヤンケ(William W. Jahnke)の「The Asset Allocation Hoax」(アセットアロケーションのまやかし)です。Journal of Financial Plannning,1997 Februaryに掲載されています。

ヤンケは、“BHB studyはポートフォリオのボラティリティを説明したのであって、リターンについて説明したのではない、この点に根本的な問題がある”と指摘し、さらに“分析は四半期ごとの変化量について行われたのであって、調査期間全体の変化量については分析されていない”として、BHB studyは間違っていると断じました。

そしてヤンケは、“BHB studyのデータを読み替えれば、現実のポートフォリオのリターンのうち、アセットアロケーションによる影響は14.6%でしかない”として、BHB studyの結論に真っ向から反論したのです。

次いで2000年には、イボットソンとカプラン(Roger G. Ibbotson, Paul D. Kaplan)が「Does Asset Allocation Policy Explain 40, 90, or 100 Percent of Performance?」(アセットアロケーションはパフォーマンスの40、90、100パーセントを説明する?)を、BHB studyが発表された専門誌Financial Analysts Journalで発表します。

アセットアロケーションは、長期にわたるリターンの変化量の90%をもたらし、一方でリターンの異なる複数のファンドにおいて、その差異の40%の要因でもあり、そして各ポートフォリオの平均的なリターンの水準の100%超をアセットアロケーションによって説明できる。”というのがこの論文の結論でした。

2003年には、インデックスファンドで知られるバンガードグループのバンガード・インベストメント・カウンセリング&リサーチ(Vanguard Investment Counseling & Research)が行った調査結果として「Sources of Portfolio Performance: The Enduring Importance of Asset Allocation」(ポートフォリオ・パフォーマンスの源泉:揺るぎないアセットアロケーションの重要性)を発表。タイトルどおりアセットアロケーションの重要性が改めて強調されます。

この調査は、1962年から2001年の約40年間、最大420もの投資信託を対象とした大規模なものでした。そして、“平均で月間リターンの変化量の76.6%がアセットアロケーションによるもの”であり、“イボットソンとカプランの結論と同じく、長期投資の結果については、平均すればリターンの(水準の)100%以上がアセットアロケーションによって決定される”とまとめています。

これ以外にも、アセットアロケーションの重要性に関するたくさんの論文、調査、レポートなどがあります。ここでは主要と思われるものを時間の許す範囲で調べて、紹介してみました。議論の経緯について主に参考にしたのは、WikipediaのAsset Allocationの項目(2007年1月22日時点)、バンガードグループのレポート「The asset allocation debate: Then and now」です。

ここに記した日本語での著者名、題名、そして内容の要約についてはすべて、基本的に僕自身で調べ、原文を読んだうえで考えたものです。ネット上には日本語でも英文でも「この論文では誰々がこう言っている」といった紹介が見つかることもありますが(Wikipediaの解説など)、それらは参考にするだけで、必ずネットを探して論文の原文、もしくはそれに近いものにあたり、内容を確認しました。

とはいえ(≒それゆえ)、間違いなどに気が付いたらぜひご指摘ください(いやもう、このエントリを書くだけで休みの日をまるまる2日以上使いました。もっと調べたいのですが時間がないです)。

ここに挙げたほとんどの論文や調査結果は、リンクで示したように原文がネットで公開されています。リンク先でそれらを読むことが出来ますが、あらためて次のエントリで、それぞれのリンク先や入手方法などについて紹介しましょう。

[関連エントリ]
“ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”要約の解説(その2)
“ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”要約の解説(その1)
論文「Determinants Of Portfolio Performance」の要約
論文「Determinants Of Portfolio Performance」を入手する!
“アセットアロケーションが重要”という説の起源を探す
アセットアロケーションの重要性に気が付く
ポートフォリオとアセットアロケーション

[関連カテゴリ]
C.アセットアロケーション

[広告]

[ブックマーク]  Yahoo!ブックマークに登録

≫次 : アセットアロケーションについての論文リンク集
≪前 : “ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”要約の解説(その2)

水瀬 ケンイチ (2008/01/22 22:32:58)

管理人さん、最高にグッジョブ!!!(^^)b

ファンドの海管理人 (2008/01/22 23:58:06)

ありがとうございます! 完全に趣味に走ってます。まだまだ続きます。

da- (2008/01/25 21:37:28)

とても興味深いテーマで新しいエントリーが出るのを毎回楽しみにしておりました。
ただ、そもそも論なのですが、どうやって”リターンにおける変動量の91.5%がアセットアロケーションによって説明される”ということを実証したのかが分かりません。
その実証方法についても要約して頂けますでしょうか。

ファンドの海管理人 (2008/01/26 17:19:05)

da-さん、こんにちは。
もちろん! この次の次くらいのエントリで、どうやって結論を導き出したのか? という解説も3回シリーズで紹介する予定です。お楽しみに!



[トラックバックURL]
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/36569/17780083


[コメントを書く]

名前:
Mail:  (必須です。ダミーでも可)
URL:  (必須ではありません)