2008年01月12日

論文「Determinants Of Portfolio Performance」の要約

投資のパフォーマンスを決定するうえで最も重要なのはアセットアロケーションである、という説の起源となる論文「Determinants Of Portfolio Performance」をついに入手しました。その中身をひもといていきましょう。

いきなり本文にあたるのは歯ごたえがありすぎるので、まずは論文の仕様について。

タイトルは「Determinants of Portfolio Performance」。著者は連名で「Gary P. Brinson, L. Randolph Hood, and Gilbert L. Beebower」です。それぞれを日本語で記すとすれば、題名「ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因」、著者「ゲイリー・P・ブリンソン、L・ランドルフ・フッド、ギルバート・L・ビーバウワー」というところでしょう。

続いて掲載紙名と日付の確認。ダウンロードした論文の各ページには、「Financial Analysts Journal/January-February 1995」が表記されています。しかし、論文1ページ目の左下脚注にはこう書いてあります。「Reprinted from Financial Analysts Journal (July~August 1986):39-44.」。つまり、この論文が最初に掲載され、発表されたのは、「フィナンシャル・アナリスツ・ジャーナル 1986年7月~8月号の39ページから44ページ」だったということです。ですから1986年発表の論文、ということになります。

では中身を読んでいくことにしましょう。とはいうものの、論文のすべてを訳して掲載するのは大変な手間ですし、こうした種類の論文をちゃんと読んだことのない僕にとっては、能力を超える作業かもしれません……。それに翻訳とはいえ、論文を勝手にまるまる転載してしまうのも、著作権上問題があることでしょう。

そこで、今回はこの論文の要約を記しておきましょう。CFA Instituteがこの論文の紹介ページに掲載したAbstractを参考に、僕なりに論文をざっくり読んだ内容を反映させて書いたものです(そう、このエントリを書くために僕は頑張って全体を読んだのです!)。

ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因

ゲイリー・P・ブリンソン、L・ランドルフ・フッド、ギルバート・L・ビーバウワー

-要約-
アセットアロケーションやマーケットタイミング、銘柄選択といった、投資のリターンを向上させようとするさまざまな行動のうち、どれがもっとも強くリターンに影響するのだろうか。調査のためにここでは、インデックスで構成され、長期投資に重きを置いたポートフォリオをベンチマークとして設定する。これと、米国で大型の年金として実際に運用されている91のポートフォリオのリターンとを、1974年から1983年の10年間について比較した。

調査結果によって示されたのは、マーケットタイミングや銘柄選択よりも、アセットアロケーションが最も大きくポートフォリオのリターンに影響を与える、ということだ。トータルリターンのうち93.6%がアセットアロケーションによる変動量であった。

調査期間におけるベンチマークポートフォリオの年間リターンは平均で10.11%。一方で、現実の91のポートフォリオの年間リターンは平均で9.01%、そして現実のポートフォリオはアクティブに運用されており、その管理コストは平均で年1.10%だった。

このアクティブな投資行動は、個々の現実のポートフォリオのリターンには大きな影響を与えており、プラス方向へは最大で年間3.69%、マイナス方向では最大で年間4.17%の変動要因となった。

結論として、マーケットタイミングや銘柄選択はリターンに影響を与える行動ではあるが、アセットクラスの選択とその重み付け、すなわちアセットアロケーションが与えるリターンへの影響からすれば、それはごくわずかなものだといえるだろう。

-初出-
Financial Analysts Journal (July/August 1986)

大事なことがたくさん書かれていますね。

ちなみに、CFA InstituteのAbstractではアセットアロケーションの影響が95.6%だと書いてありますが、論文の本文では93.6%となっています。おそらくAbstractを作るときに間違えたのでしょう(一次資料を参照することが大事だ、という見本ですね)。

この論文は有名ですし、これからもアセットアロケーションの重要性が語られるときにはこの論文の名前がでてくることでしょう。そうすると、この要約の引用を要望される方もいるかもしれないと思っています。そこで、「投資信託のブログ|ファンドの海」というブログ名を明示してこのエントリにリンクしていただく、という条件の下であれば、どなたでも上記の要約の全文を自由に転載してよいことにします。

いやあ、かなりの頭脳労働でしんどいです。でもまだ続きます。

[関連エントリ]
“アセットアロケーションが重要”という説の起源を探す
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ポートフォリオとアセットアロケーション

[関連カテゴリ]
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吊られた男 (2008/01/15 22:14:32)

すばらしい内容で、面白く読ませていただいています。

「投資リターンの多くはアセットアロケーションが決定する」とあまりにも多くの方が主張するので、私もその根拠を調べていました。
私の場合はブリンソン後のイボットソンのレポートをテーマにしましたが、このブリンソンのレポートも是非読ませていただきます。

ファンドの海管理人 (2008/01/16 1:25:12)

吊られた男さん、はじめまして。コメントありがとうございます。このブリンソン氏らの論文だけで、実は詳細に解説を書き続けて、もう6エントリくらい書きためたので、徐々に公開していこうと思います。お楽しみに。

関連してイボットソンの論文も読みました。吊られた男さんとは解釈が異なるのですが、イボットソンもConclusionで「アセットアロケーションは長期にわたるリターンの変化量の90%を説明する」"asset allocation explains about 90 percent of the variablity of a fund's returns over time"と結論づけていますよね。
イボットソンの論文についても、このブログで書いていきたいと思っています。

ただ、吊られた男さんがブログに書かれて疑問に感じている点の多くは、ブリンソンの論文を(このブログで)解説していく中でいろいろ解けていくのではないかな、とも思うので、ぜひその意味でも続きをお楽しみに。もちろん、これが正解、というつもりではなく、判断の材料が増える、という意味で受け取って頂ければと思います。

吊られた男 (2008/01/17 0:47:37)

力作、楽しみに読ませていただいています。

このような立派なシリーズの中で、私の解釈などを述べさせてもらうのも恐縮なのですが、私の解釈だとブリンソン、イボットソンの主張は「一般的な投資信託」についてはあてはまり、個人の取引の場合はそれが当てはまらないという解釈です。
例えば、オーバーナイトで株を持たず、数分・数十分単位で1日に数十回売買をするスキャル・デイトレ派を考えます。そうすると彼らデイトレ派内のリターン差も、彼らと長期投資派の比較でも構いませんが、10年間などといった長期間のリターン差の90%がアセットアロケーションで説明できると思いません。
また、同じアセットに投資しても買いから投資する人と売りから投資する人のリターン差の90%を説明できるとは思えません。

アルビレオ (2008/01/17 4:41:42)

吊られた男さん
>オーバーナイトで株を持たず
これではポートフォリオとは呼べないでしょう。
論じられているのは「ポートフォリオのパフォーマンス」なので、明らかに対象外のものを持ち出して「当てはまらない」といっても無意味だと思います。
それにこれでは短期取引には当てはまらないという説明であって、取引をしているのが個人なのかファンドなのかとはまるで関係がないと思いますが。

吊られた男 (2008/01/17 22:47:12)

アルビレオさん、

その通りだと思います。
短期売買の話はイボットソンやブリンソンの研究の対象外です。

しかし、個人向けの投資本などで、ポートフォリオであったり、長期保有という前提条件を宣言せずに、いきなり「投資において長期間のパフォーマンスの80%はアセットアロケーションで決まる」と主張をしているものがあります。(ここで個人という話を出しました)
彼らの主張の場合、1銘柄の平均保有期間が1週間の場合は対象でしょうか?2週間は?1ヶ月は?これらの場合もファンド同様に100%前後の回転率のファンド同様にアセットアロケーションにリターンの80%程が影響されるのでしょうか?

私は研究はしていませんが、1週間の売買ではアセットアロケーション以外のタイミング等の要素が大きくなると思います。

つまり、私の非難はブリンソンやイボットソンに向けられたものではありません。ブリンソンやイボットソンの研究成果は正しいです。
そうではなく、彼らの発言の一部を抜き出して拡大解釈して、あたかも全ての投資手法において長期リターンを決定するのはアセットアロケーションだと言うかのような表現をしている人々(加えて言えば、それでお金を取っている)に対しての非難です。



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