2008年02月 9日
徹底解析:パフォーマンスの決定要因は回帰分析で求められた
ポートフォリオのリターンを決定する最も重要な要因は何なのか? この問いに答えるために書かれた論文を読み解いてきました。前々回では用意されたデータを理解し、前回は分析のためのフレームワークを見てきました。最後に、結論の導き方を理解しましょう。
ブリンソン氏らの論文「Determinants of Portfolio Performance」(ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因)によれば、ポートフォリオのパフォーマンスには、アセットアロケーションによるもの、マーケットタイミングによるもの、銘柄選択によるものの3種類が存在します。
論文の中では、分析のために用意したデータを、新たに考案されたフレームワークによって分析した結果、(I)アセットアロケーション、(II)マーケットタイミング、(III)銘柄選択、の3つによるそれぞれのリターンが下記のように求められました。
ここからなにが分かるでしょうか?
左上、(IV)の9.01%とは、アクティブな運用としてマーケットタイミングや銘柄選択を駆使して運用した年金ポートフォリオの1974年から10年間にわたる現実の年間平均リターンです。
一方で、右下(I)の10.11%とは、アセットアロケーションを変化させないためマーケットタイミングを行わず、銘柄選択を行わないインデックスでの運用だけを想定した、ベンチマークポートフォリオの年間平均リターンです。
これを見て分かるのは、(IV)のアクティブな運用が、(I)のインデックス運用だけを想定したベンチマークポートフォリオのリターン負けてしまった、ということです。
アクティブ運用では、マーケットタイミングでリターンの0.66%を失い、銘柄選択で0.36%を失っています。また、91の年金のアクティブ運用のコストは、平均で1.10%でした(偶然ですが、これはアクティブ運用がベンチマークポートフォリオに負けた数値と一致していますね)。
ただし、ベンチマークポートフォリオでは手数料などを一切考慮していませんので、そのことは考慮すべきでしょう。
さて、この結果だけを見ても、ポートフォリオを運用するには、アセットアロケーションを決めたら、あとはマーケットタイミングも銘柄選択もする必要はない、それだけアセットアロケーションはほかの要素に比べて重要なのだ、ということが分かります。よね。
では、どれだけアセットアロケーションは重要なのか? 重要さを数字で表してこそ、客観的に重要さを認識できることになります。
それを求めるためにブリンソン氏が行ったのは、回帰分析という手法でした。回帰分析というのは、2つ(もしくは複数)の値にどれだけ関連性があるのか、といったことを数学的に計算する方法です。
実際に運用されている91の年金の平均リターン(IV)に対して、アセットアロケーション(I)、マーケットタイミング(II)、銘柄選択(III)のそれぞれが、どれだけ関連しているのかを求めることで、リターンに対する重要度が分かります。
この回帰分析は四半期ごとの値に対して行われました。その結果導き出されたのが、“Table 7.”です。
Table 7.を見てみましょう。(IV)が100%ですが、これは当然のことで、(IV)の変化量は(IV)自身で完全に説明できるためです。そしてその(IV)の変化量の93.6%が、(I)のアセットアロケーションによって説明できる、ということも示されています。一方で、アセットアロケーションとマーケットタイミングの組み合わせ(II)によって説明できるのは、95.3%、アセットアロケーションと銘柄選択の組み合わせ(III)によって説明できるのは、97.8%です。
つまり、実際のリターン(IV)に対して、マーケットタイミングだけで説明できる変化量は、95.3%-93.6%=1.7%、銘柄選択だけで説明できる変化量は97.8%-93.6%=4.2%。それぞれわずかな影響しか与えていません。実際のリターンにもっとも影響を与えているのはアセットアロケーションであり、それには93.6%もの重みがある。ということが分かります。
これが論文「Determinants of Portfolio Performance」(ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因)の結論なのです。
ようやく、この論文の読み解きが終わりました。フレームワークによってパフォーマンスの決定要因が見事に分析され、説明されていることに、僕はとても感心しました。
しかし、以前のエントリ「アセットアロケーションはどこまで重要か? 専門家たちの議論」で紹介したように、この論文に対する異論もありますし、別の方法で分析を試みている専門家もいます。
いつかは、そういった話題も追ってみたいと思います。が、ずいぶん難しい話が続きましたので、少し息抜でもしてから、と思っています。読者のみなさまも、お付き合いありがとうございました。
次回からは、いつもの投資信託の話題にもどります。たぶん。
[関連エントリ]
・ 徹底解説:パフォーマンスの決定要因を分析するフレームワーク
・ 徹底解説:パフォーマンスの決定要因の分析に使われたデータ群
・ アセットアロケーションはどれほど重要か? 20年の議論の軌跡
・ “ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”要約の解説(その2)
・ “ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”要約の解説(その1)
・ 論文「Determinants Of Portfolio Performance」の要約
・ 論文「Determinants Of Portfolio Performance」を入手する!
・ “アセットアロケーションが重要”という説の起源を探す
・ アセットアロケーションの重要性に気が付く
・ ポートフォリオとアセットアロケーション
[関連カテゴリ]
・ C.アセットアロケーション
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うーん、論理のプロセス自体はそれなりに説得力がありますが、ちょっとつっこみどころが多すぎて「その結論は乱暴すぎるだろ」というのが感想ですね。
○データソースが大型年金基金に限定されていること
年金という資金の性質から比較的保守的な運用に傾きやすいだろうし、大型年金は資金量の大きさのせいで自身のマーケットインパクトが大きくて積極的にタイミングを狙いにくく、その資金量を市場が吸収するには銘柄の分散が必要なので銘柄選択にも制約が出るはずです。
結果としてアクティブ運用といってもベンチマークからそう大きく外れることはできません。
つまり最初からマーケットタイミングや銘柄選択の寄与が少ない偏ったデータを選択しているともいえます。
○3つの要因に直交性がない
「マーケットタイミング」「銘柄選択」の抽出方法はまだいいとして、それらを引いた残り全部がアセットアロケーションによるものとするのはかなり不公平なやり方です。
リターンの要因を3つに分類するのであれば、その3つを対等に扱える計算方法を使わないと信頼できる結論とはいえないでしょう。
「じゃあ、どう計算すればいいんだ」と言われると困ってしまうわけなんですが…
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