2008年09月 1日
アセットアロケーションの重要性と難しさを示す問答(1)
読者の方から質問をいただきました。それは、試行錯誤した結果、事後的に最適なアセットアロケーションが決まるのであって、事前にはわからないのではないか? というもの。
実はsean.さんから全部で3つのご質問をいただいています。その内容はや専門的になりますし、僕は正解を答えられるかどうか不安ではありますが、それぞれ興味深い質問で、しかも僕がいろいろ調べてきたことに関連しているので、自分なりに考えて返答したいと思います。
今回は1つめの質問について。こんな質問でした。
“ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”で言われていることは、『91の年金の10年間の実績を調べた結果、アセットアロケーション要因が最も大きく、トータルリターンのうち93.6%を占めている』ということですね。しかし、このアセットアロケーションはどのようにして決めたのでしょうか。論文で用いられたベンチマークは、アクティブ運用の結果の平均値です。つまり、試行錯誤した結果、事後的に最適なアセットアロケーションが決まるのであって、事前には分からないのではないでしょうか。
“ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”は、僕のブログの熱心な読者の方ならすっかりご存じと思いますが、アセットアロケーションの重要性をはじめて理論的に明らかにした論文です。
さて、上記の質問には、2つの疑問が含まれています。
「このアセットアロケーションはどのようにして決めたのでしょうか」
「試行錯誤した結果、事後的に最適なアセットアロケーションが決まるのであって、事前には分からないのではないでしょうか。」
先に2つめの疑問、「試行錯誤した結果、事後的に最適なアセットアロケーションが決まるのであって、事前には分からないのではないでしょうか。」については、はっきり「そのとーり!」(児玉清風)だと思います。
事前に最適なアセットアロケーションが分かったらそれは予知能力ですよね。例えば、事前に「3年後にもっとも高いリターンを得られるアセットアロケーション」とか「5年間、リスクが5%以下に抑えられるアセットアロケーション」を、過去のデータから推測することはできますが、本当にそうなるかどうかは分かりません。だから、最適なアセットアロケーションは事前には分かりませんよね。
では1つめの疑問、「このアセットアロケーションはどのようにして決めたのでしょうか。」については、その直後に質問者であるsean.さん自身がお答えになっています。「論文で用いられたベンチマークは、アクティブ運用の結果の平均値です。」と。そのとーり!(博多華丸風)。
“ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”では、調査対象となった91の年金を平均化したアセットアロケーションについて調査をしたのです。
ということで、この質問は実はsean.さん自身の中で答えがでているのです。それをあえて僕が言語化すると、こんな感じです。
論文“ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”で求めたのは、“事前に理想的な配分など分からないアセットアロケーション”、“事前にタイミングが分からないマーケットタイミング”、“事前にどれがよいか分からない銘柄選択”の中で、リターンにもっとも大きな重要性をもたらすものはなにか? について調べたものなのです。答えは“アセットアロケーション”ですよね。決して、理想的なアセットアロケーションによって重要性がもたらされるものではありません。常にアセットアロケーションは重要なのです。
だから、この論文が僕たちに教えてくれるのは"アセットアロケーションが大事だからよく考えるように”ということです。でも”何がよいアセットアロケーションなの?”ということはこの論文の範囲外なんですね。
では、次はアタックチャーンス!(いや、意味はありません:- )
なのですが、長くなりそうなので次の質問への返答は次回のエントリで。
[関連エントリ]
・ 論文「Determinants Of Portfolio Performance」の要約
・ 徹底解説:パフォーマンスの決定要因の分析に使われたデータ群
・ 徹底解説:パフォーマンスの決定要因を分析するフレームワーク
・ 徹底解析:パフォーマンスの決定要因は回帰分析で求められた
[関連カテゴリ]
・ C.アセットアロケーション
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はじめまして、うさみみといいます。
アセットアロケーションに興味があって、タイトルで思わず飛びついてしまいました(^^♪
で、筋道立てて考えていくと、ほんとこの記事のとおりですよね。
>決して、理想的なアセットアロケーションによって重要性がもたらされるものではありません。常にアセットアロケーションは重要なのです。
この言葉にはしびれました。
うさみみも楽しみながら考えて行きます(^^♪
sean.です。ご回答、ありがとうございます。
◆最適なアセットアロケーションの事前決定方法について
(1)と(2)とを合わせて要約すると、次のようになると考えてよろしいでしょうか
最適なアセットアロケーションを事前に決定することは出来ないが、補助手段として現代ポートフォリオ理論に基づく計算方法がある。
ただし、計算に用いるデータは将来の動向を正確に示すことが出来ないため、この計算方法にも限界がある。
◆アセットアロケーションの重要性について
“ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因”では、『パフォーマンスの決定要因としてアセットアロケーションが重要である』と言っているだけだということは理解できたのですが、再度読んでみてよく分からない点が出てきました。
特定の運用者の、特定の時期の、特定の資産クラスに関する分析を一般化しているのは、どのような根拠に基づくのでしょうか。「91の年金の1974年から10年間の米国株式、米国債券、現金の運用を調べたところ、パフォーマンスに圧倒的に影響を与えていたのは、アセットアロケーションであった」というのは事実の分析ですが、「常にアセットアロケーションは重要」と一般化するのは飛躍があるのではないでしょうか。「年金運用という特殊要因があったのかもしれない」とか「単に運用が下手だった」とか、このサンプルに限定された因果関係であることも否定できませんよね。論文では、一般化の根拠についてどのように述べられているのでしょうか。それとも、この論文では一般化しておらず、読者が勝手に類推しているのでしょうか。
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