2008年11月29日
緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
先日読者の方からいただいたコメントに、「運用結果がプラスの年もあればマイナスの年もあるのに、本当に複利として投資したお金が増えていくのか?」という質問がありました。これは調べてみなければ!
まずは複利について簡単におさらい。
例えば、期待リターンが10%の貯金があったとき、元本が100万円なら、1年目は110万円、2年目は121万円、3年目は133万円、4年目は146万円、5年目は161万円、と、雪だるま式にお金が増えていくこと。複利の効果を知るためには、僕の作った「積立と複利計算」もぜひ試してみてください。
おさらいおしまい。ここからは、期待リターンとリスクのお話し。
定期預金なら毎年確実に最初に決められた利回りでお金が増えていきますが、株式は違います。期待リターンが10%の株式があったとしても、実際には1年後に20%プラスになっているかもしれませんし、5%のマイナスになっているかもしれません。どれぐらい期待リターンから結果がぶれるかは、その株式のリスクとして表されます。
株式や投資信託などは、過去の値動きのデータから、期待リターンとリスクを統計的に計算することができます。リスクはそれまでの値動きのばらつきが標準偏差として表されます。図にするとこんな感じ。「コラム:損するリスク、儲かるリスク - 投資信託のガイド|ファンドの海」から引用。

で、話を単純にするために、「期待リターンが10%、リスク(つまり標準偏差)が0.33333...」の株があったとします。この株は、1年後に10%増えることを期待できますが、リスクとしておおむね0%から200%くらいのあいだで値動きがあります。その値動きは、ちょうど右のような感じのグラフで表せます。
まさに正規分布のグラフですね。中央の縦線が1.1、つまり10%増えることになる可能性が一番高くて、それ以外の可能性は中央から外れるほど低くなっていきます。
さて、この株式に投資したとき、1年後にどうなっているのでしょう? 結果は分かりません。順当に10%増えているかもしれませんし、運良く20%増えているかもしれません、あるいは運が超悪くて会社が破産して紙くずになっている可能性だって、0%ではないのです。ごくまれに、200%になっているかもしれません。ただ、10%増えている可能性が一番高い、ということが過去の経験から分かっています。
思考実験として、1000個のパラレルワールドがあったとして、その1000個のパラレルワールドでこの株へ1万円投資してみましょう。パラレルワールドごとに結果は異なるでしょうけれど、すべてのパラレルワールドの結果の平均をみれば、おおむね10%増えていることになるはずですね。では、1000個のパラレルワールドでその投資をもう一年続けたら、平均はさらに10%増えるのでしょうか? さらにそのままもう1年保有していたら?
これを実際にエクセルでシミュレーションしてみました。
下記のグラフは、期待リターン10%、リスク0.33333..の株式に対して、5年間投資し続けることを256個のパラレルワールドで行った結果です。グラフの制限で、パラレルワールドは256個になってしまいました。

1年目のところを見てください。この株式は、10%増えることが期待されてはいますが、おおむね0万円から2万円の範囲の値動きがあります。その様子がグラフに現れていますね。2年目はそのばらつきがさらに広がり、3年目、4年目、5年目と、結果のばらつきがどんどん広がっていくのが分かります。
ばらつきの様子もグラフにしてみました。

1年目のばらつきは、正規分布に沿ったものになっているようです。2年目はばらつきが広がって、全体に山が低くすそ野が広がっています。3年目、4年目、5年目と、その傾向が強くなっていきますね。
ここで注目したいのは、1年目から5年目まで、山のピークの部分があまり右に移動していないことです。ピークはそれほど動かず、すそ野が徐々に右に広がっていく傾向がみてとれます。
では、各パラレルワールドの平均はどうなっているのでしょう。
| 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | |
| 平均値 | 1.909 | 1.209 | 1.320 | 1.458 | 1.635 |
| 中央値 | 1.109 | 1.116 | 1.196 | 1.246 | 1.323 |
| 10%複利 | 1.1 | 1.21 | 1.331 | 1.464 | 1.61 |
平均値でみると複利に追いついているようですが、グラフで見たとおり中央値は低くなっていますね。
ひとまずの結論。シミュレーションに間違いがなければ、平均で見ればなんとなく複利の結果になっているような気がします。どうでしょう。今回は緊急調査として、まずはざっくり調べてみましたが、ここを足がかりに、もう少し詳しく調べていこうと思っています。また結果は紹介しますのでお待ちください。
このシミュレーションはどうやって作ったかというと、具体的には、エクセルで平均1.1、標準偏差0.333333...になるような乱数を256回発生させて、数値1と掛け算します。その結果に対してまた、平均1.1、標準偏差0.333333..になるような乱数を256回発生させてさらに掛け算し、ということを5回繰り返してグラフにしたものです。
作成には「インストラークターのネタ帳 - 正規乱数・正規分布する乱数を発生させる」を参考にさせていただきました。それから、「投信リターンシミュレーション@ランダム を作っちゃいました。」からもシミュレーションのヒントをいただきました。
エクセルのシートをダウンロード可能にしておきます。ミスやアドバイスがあれば、ぜひ教えを乞いたいところです。いやー統計とか確率とか難しいです。
このテーマの記事一覧
第1話:緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
第2話:再考:株式投資に複利効果はあるのか?
第3話:改題:投資信託の長期投資は複利なのか?
第4話:追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第5話:さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第6話:中間報告:投資信託の長期投資は複利なのか?
第7話:どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのか
第8話:長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう
第9話:投資信託を長期保有したら複利になるのか、の参考文献
第10話:投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション
第11話:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第12話:続:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第13話:投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい
第14話:リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む
第15話:TOPIXを20年保有したシミュレーション。元本割れの確率は?
第16話:高いリスクこそが破壊的な結果をもたらすのではないか
第17話:まとめ:長期保有のリスクとリターンについて分かったこと(前編)
第18話:まとめ:もしくは再検討の予告
[関連エントリ]
・ コラム:損するリスク、儲かるリスク - 投資信託のガイド|ファンドの海
・ 積立+複利の計算の正しいやり方をだれか教えてください!
・ 回答編その1! 積立+複利の計算の正しいやり方を考えてみました
・ 回答編その2! 積立+複利の計算の正しいやり方を考えてみました
[関連カテゴリ]
・ 6.投資方法・ドルコスト平均法
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投資信託を趣味にしているビジネスマン、イーノ・ジュンイチです。いつもご愛読ありがとうございます!




イーノさま いつも参考にさせていただいております。このたびは早速のご検討ありがとうございます。
5年目の平均値が複利の値を上回っているのは意外でしたが、中央値の値の方は実感に近い感じがしました。
アセットアロケーションをシミュレーションするときに、1年後の期待利回りだけでなく、この平均値・中央値が参考資料として表示されると便利ではないかと思うのですが、あくまで推定値ですから難しいかも知れませんね。
資産形成を志す長期の投資家にとって、複利運用利回りこそが重要なのに、まさに長期の運用手法であるはずのアセットアロケーションにその長期の期待利回りが表示されないことを不思議に思った次第です。
今後とも、どうぞ宜しくお願いします。
少し異なる思考実験ですが、平均1.0、標準偏差0.333333 でシミュレーションすると、期待値は以下のように計算されて、資産が減ってしまうと思うのです。平均を 1.1 とした場合にも、この効果は残っていると思うのですが、どうお考えですか?
例えば、2 年間の成績が
リターン 1 年目 2 年目 成績の平均値 資産額
試行 1 1.0 1.0 1.0 1.0
試行 2 1.1 0.9 1.0 0.99
試行 3 1.2 0.8 1.0 0.96
というようなケースがあり、成績の平均値が 1.0 の場合には、資産額の期待値は、
1.0 を下回る方向です。
標準偏差が大きいほど、資産額の期待値は、小さくなるのではないでしょうか?
こんにちは。Sean.です。
面白いシミュレーションですね。
「ばらつきが広がって、全体に山が低くすそ野が広がる」ということは、リスクが大きくなることを意味しますね。イーノさんのシミュレーション結果を用いて5年間のリスクを計算すると、1.25になりました。当初の0.33からかなり大きくなりました。
1年間でリターン10%、リスク33%であれば、ゼロになる確率は0.048%と無視できますが、同じものを5年持つと9.3%の確率で資産がゼロになってしまうという結果です。???変ですね。
シミュレーションでは、それぞれの確率を全く独立して計算されていますが、『時間が経てば想定リターンに近づく』という前提をおいたら良いのではないかと思います。例えば
norminv(rand(),当年までの理論値累積/前年までの累積実績,リスク)*前年値
これは、「上がれば下がる、下がれば上がる」という感覚的なものを表現したに過ぎませんから、実データで検証する必要があります。特に『累積期間をどの程度にするのが妥当か』、『(当年までの理論値累積/前年までの累積実績)が当年の平均値に相応しいのか』など
Sean.
初めまして
・正規分布は、確率変数を沢山足す事で得られる
・株価、基準価格の日々の、あるいは年々のリターンは足し算よりも掛け算で考えるべき
・ということは対数をとると足し算になる
結論として、株価の対数が正規分布で近似出来ます。
少々手抜きな書き方ですが、URL欄のコメントにも少々書きました。
みなさんコメントありがとうございます。
羊雲さん。中央値で見ると、実は過半数の人が複利に届かないんですよね。このシミュレーションがどれだけ正しいのかまだ確信は持てないのですが、過半数が複利に届かない結果というのは、多少驚きの結果のように思えます。
Akameganeさん。僕も1.0/0.333...でやってみましたが、平均はおおむね1.0のままでした。何かが違うんですかね。ダウンロードしたエクセルシートのC1セルが期待値なので、ここを1にして計算してみてもらえれば分かると思います。ですから、1.1にしたときにプラスになるのは、僕としては順当な結果に見えます。
sean.さん。こんばんは。僕はグラフを見て、2年目以降のばらつきは左右非対称になっている(つまり元本より上方向と下方向では異なっているリスクが生じている?)ので単純な標準偏差では表せないのではないかと想像しています。
それから、株価がランダムウォークだとすると、ターゲットに近づく、あるいは前年がどうだ、という要素は入れないほうがモデルとしては正しいように思うので、毎年ごとに独立して計算していくほうが利にかなっていると思うのですが、いかがでしょう。
COLEさん、こんばんは。コメントとリンク先を読ませて頂いたのですが、実のところさっぱり分かりませんでした。唯一分かったのは、株価の変動は正規分布ではなく実はベキ分布に従う、というところだけです。もう少し情報があれば教えてください。
ブログ、よく読ませていただいてますが。コメントは「はじめまして」ですかね。
TBありがとうございました。
中央値が平均値より小さくなるというのは、私もシミュレーションを作って、すぐに疑問に思いました。
+20%と+20%は同じではないから、という事かなと思います。
http://kabuohazimeru.blog22.fc2.com/blog-entry-440.html
次回の記事、楽しみにしております。
2年目以降が正規分布になっていないのは、『加減算によって計算された平均値や標準偏差の分布を乗算した』ためであることは、皆さんの指摘の通りであって、株価のシミュレーションとしては数学的に不十分だと思います。
> 株価がランダムウォークだとすると、ターゲットに近づく、あるいは前年がどうだ、という要素は入れないほうが。。。。
『株価は理論株価の周辺をランダムに推移する』と考える方が自然ではないでしょうか。トレンドラインとは無関係にランダムウォークするとは言えないと思います。
「一株当り利益、金利、リスクプレミアム、利益成長率」等で計算される理論株価は、銘柄毎に異なりますし、時間的にも変化します。しかし、株式投資の複利効果のシミュレーションとして、パフォーマンス一定の仮定は許容できますね。
Sean.
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