2008年12月12日

その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)

今日は所用で大手町方面へでかけました。大手町にはOAZOというビルの中に、大きな本屋さんが入ってるんですね。それでつい、いま抱えている問題に「なにか参考になる書籍はないだろうか」と立ち寄って、金融の専門書のコーナーで本を物色しました。

まだ自分がよく理解できていない問題のなかで、特に理解したいと思っているのは次の2つの点です。

1)投資信託を長期保有したときのN年後のリスク(=標準偏差)の計算方法
2)投資信託を長期保有したときのN年後のリターンが取りうる最頻値

前者は複数期間のリスクの計算方法として、後者は対数正規分布の最頻値(あるいは幾何平均?)の求め方、なんていう風に専門的にはいうのではないかと思って、そのあたりが載ってそうな本を手にとってぱらぱらめくっていました。

で、1冊買いました。こんな本。2100円なり。

Books0812b

まったく自分はこの長期保有の問題にどれだけ時間と情熱とお金を費やしてるんだよ、と我ながら感心しますけれどね。

この本を僕が買ったのは、こんなことが書いてあったからです。

n年間投資すると、リターンはn倍になるのに対してリスクは√n倍にしかなりません。

おお! リスクは√n倍にしかなりませんと言い切っている! そうなのか? 本当にそうなのか? 僕が苦労して理解しようとしている問題はこんなに単純なのかな?

そういえば、以前のエントリ「長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう」で引用した山崎元の記事「ホンネの投資教室 第三十四回 資金運用における短期と長期について」をもういちど引用してみましょう。

富の額のばらつきは、2年間の運用だと、1年間の運用の約1.414倍だし、4年間の運用だと2倍になる。

2年間の運用で1.414倍=√2、4年で2倍=√4。はい、ここでも実は同じ√n倍の法則がでてきていたんですね(このときのエントリでは僕は間違った理解をしていて、コメント欄で指摘されていました)。

以前のエントリのコメント欄で対数正規分布でのN年後の標準偏差の近似式を教えてもらって、前回のエントリ「投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション」で試算しています(ここでも実は少しミスをしているのですが、結果に大きな影響はありませんでした)。

その式は(見かけは単純ですが)それなりに複雑です。

でも、今回買った本や山崎元氏が書いているように、シンプルな式で求められるのならそれでもいいじゃん、と思い、さっそく検算してみることにしましょう。今回は、上記の式がこれまでのシミュレーション結果に合致しているかどうかを確認するのがメインです(別のコメントで、正規分布と対数正規分布のN年後の標準偏差の求め方の違いについて説明してもらってはいますが、とにかく自分で確かめてみましょう)。

さて。これまでシミュレーションしてきたのは、期待リターン1.1、標準偏差(=リスク)0.3333...の投資信託を長期保有する、というものでした。その20年間の結果を5年ごとに表にしたのが下記です(以下同様に、リスク=標準偏差で話を進めます)。

1年目5年目10年目15年目20年目
平均値1.1101.6402.6424.3576.927
標準偏差0.3381.2433.0737.10513.214
10%複利1.11.612.5934.1776.727

上記のシミュレーションの結果と、

n年間投資すると、リターンはn倍になるのに対してリスクは√n倍にしかなりません。

がどれほど合致するのか、計算してみましょう。と、その前に、ちょっと「リスク」についてもういちど確認。この調査をはじめた最初のエントリ「緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?」で用いたリスクの図をもういちど見てみてください。

ポイントは、リスクは期待リターンに対してどれだけぶれるか? なんですよね。だから、期待リターンが1.1なら、1.1に対して上下のぶれ具合がリスクの値になる。期待リターンが10なら、10に対してどれだけぶれるのかがリスクです。

で、リスクは基本的には%で表示されますから、期待リターンが大きければ同じリスクでもぶれ幅が大きくなるんですね。

では、式を考えてみましょう。

1年目、すなわちN=1のときのリスクは、元本1に対して期待リターンが1.1。そしてN=1だから、そもそもこの投資信託のリスクである0.33333...を√1倍します。式で書くと、

1年目のリスク= 1×1.1×(0.33333....× √1) ≒0.366666.....

こんな感じですかね。2年目はどうでしょう。2年目の元本は、こんどは1.1になります。期待リターンはそのまま1.1を採用。そしてN=2だから、リスクの0.33333.....を√2倍。これを式で書くと、

2年目のリスク = 1.1×1.1×(0.33333...×√2) ≒0.5703

こんな感じでしょうか。

3年目はどうでしょう。3年目の元本は、2年複利の結果である1.21になります。期待リターンは1.1、そしてN=3だからリスクも0.33333.....を√3倍。これを式で書くと、

3年目のリスク = 1.21×1.1×(√3×0.33333...) ≒0.7684

見えてきましたね。つまり、

N年目のリスク = (N-1年目の金額 × 期待リターン )× (√N × リスク)

で、 (N-1年目の金額 × 期待リターン )ってのは、実は(N年目の期待リターン)になるんですね。だからまとめれば、

N年目のリスク = N年目期待リターン × √N × リスク

となるわけですよ。実際にこれで5年目、10年目、15年目、20年目を計算してみましょう。ちなみにN年目期待リターンというのは、上記のシミュレーション結果でいうと10%複利の結果が該当します。

5年目のリスク = 1.61 × √5 × 0.33333... = 1.200
10年目のリスク = 2.593 × √10 × 0.33333... = 2.7340
15年目のリスク = 4.177 × √15 × 0.33333... = 5.3927
20年目のリスク = 6.727 × √20 × 0.33333... = 10.0286

これを上記のシミュレーション結果の表と比べてみると、うーん近いような遠いような。たぶんこの式は、正規分布を前提にしているような気がするので、次回は正規分布でシミュレーションした結果と比べてみます。たぶんそっちなら数値が一致しますよ。

というわけで今回はTOPIXの期待リターンとリスクを使ってのシミュレーションの予定を変更してお送りしました。

このテーマの記事一覧
第1話:緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
第2話:再考:株式投資に複利効果はあるのか?
第3話:改題:投資信託の長期投資は複利なのか?
第4話:追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第5話:さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第6話:中間報告:投資信託の長期投資は複利なのか?
第7話:どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのか
第8話:長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう
第9話:投資信託を長期保有したら複利になるのか、の参考文献
第10話:投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション
第11話:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第12話:続:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第13話:投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい
第14話:リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む
第15話:TOPIXを20年保有したシミュレーション。元本割れの確率は?
第16話:高いリスクこそが破壊的な結果をもたらすのではないか
第17話:まとめ:長期保有のリスクとリターンについて分かったこと(前編)
第18話:まとめ:もしくは再検討の予告

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6.投資方法・ドルコスト平均法

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COLE (2008/12/12 9:01:07)

> n年間投資すると、リターンはn倍になるのに対してリスクは√n倍にしかなりません。

これは確率変数の足し算の時に成立しますので、単利運用の場合の公式ですね。

というか、個人投資家向けのいかがわしい本(チャートで1億稼ぐ、とか)ではなく、真面目そうな本にもこのように書かれていることに驚きました。
ブラック=ショールズ式を知っている人なら常識、そうでなくても運用を職業にしている人ならと当然知っていると思っていたので(山崎氏の場合は「ご存知だけれどブログで簡潔に書くため」だと思っていました。)、
イーノさんが「半数以上が平均に追いつかない」ことに驚かれたのと同じくらい驚きました。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/12 11:13:13)

COLEさんこんにちは。
あらためてこの本のこの記述があるページをよく読んでみると(ブログ書いたときには、本文にあったポイントだけ見て計算をはじめてしまったので、前後の説明をよくよんでなかった)、この√nの求め方が書いてありました。

抜き書きするとこんな感じです。

期間がn倍になると分散がn倍になる点については、以下のように分散の和に関する性質と関係しています。(略)標準偏差は分散の和なので(2)式が求められます。

はい、たしかに和の公式で求められていますね。

この説明自体は分かるようになってきましたが、たしかこれって、相関の異なる証券を組み合わせたポートフォリオのリスク計算に似てますよね(たしか相関係数を掛けてかな?)。しかし、複利のような時系列で考える場合には、各分散は独立ではなくて前の分散に影響されているから単純な和では求められない、という理解でいいのでしょうかね。



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