2008年12月21日
リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む
ほとんどの本には、投資信託を長期保有すれば複利の効果が働いて有利に増やすことができる、と書いてありますし、僕もそう信じてきました。しかし、これまで調べてきたところでは、話はそれほど単純ではないことが分かってきました。
そのことをはっきりとした形で説明してくれた本を、また買いました。こんどはこの本です。吉本佳生氏の「金融機関のカモにならない! おカネの練習問題50」。
このなかに、このエントリの表題にした「リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む」ということを解説した部分があります。
これは株や投資信託のようにリスクのある金融商品の複利効果がどのように働くのかを示してくれています。結果は驚くようなものになりますが、順を追って説明しましょう。
この本では例を単純化して、1年後に株価が30%上昇するか、もしくは30%下降するような株を2年間運用したと想定しています。
本から説明を引用しましょう。
4人が」同じ投資をすると、確率的には、1年目で2人が資金を130まで増やします。残りの2人は70まで減らします。
130の資金になった2人のうち、1人は2年目も30%ふやすことができてプラスの複利効果の恩恵で169まで増やします。もう1人は、1年目の130から30%減らし、マイナスの複利効果のために資金を91に減らし、元本割れになってしまいます。
2年の4人の資産を図で示したものが以下です。これも書籍から引用しました。
そう、リスクのある資産で運用した結果、4人のうち3人は元本割れです。しかし4人の平均は利回りと同一(この例では利回り0なので0のまま)になります。
つまり、リスクのある資産運用の結果はどんどんばらついていくし、しかも明らかに半数以上の人が平均以下の結果に終わるのです。
これは、ぼくがさんざんシミュレーションしてきた結果と符合します。僕のシミュレーションでも、投資信託のようなリスクのある資産を運用すると、全体の利回りの平均は複利に一致しますが、運用期間が長くなると、儲けは一部のひとだけになっていき、複利にとどく人がとどんどん減っていきます。
僕はこれまでなんとか、何割の人が複利に届かないのか、とか、どれくらい結果がばらつくのか、を求める公式を導き出せないかともがいてきましたが、残念ながらそこには至りませんでした。
しかし少なくとも、以下の2つは正しそうです。
・運用期間が長くなれば、結果のばらつき(リスク)は上昇する
・運用利回りが複利に届く確率は半分以下である
このどちらも、これまで雑誌や書籍で説明されてきたこととは異なっていたのでなかなか自信を持つことができなかったのですが、これで上記については正しいのだろうと自信を持てるようになってきました。
このテーマの記事一覧
第1話:緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
第2話:再考:株式投資に複利効果はあるのか?
第3話:改題:投資信託の長期投資は複利なのか?
第4話:追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第5話:さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第6話:中間報告:投資信託の長期投資は複利なのか?
第7話:どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのか
第8話:長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう
第9話:投資信託を長期保有したら複利になるのか、の参考文献
第10話:投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション
第11話:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第12話:続:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第13話:投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい
第14話:リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む
第15話:TOPIXを20年保有したシミュレーション。元本割れの確率は?
第16話:高いリスクこそが破壊的な結果をもたらすのではないか
第17話:まとめ:長期保有のリスクとリターンについて分かったこと(前編)
第18話:まとめ:もしくは再検討の予告
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・ 6.投資方法・ドルコスト平均法
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≪前 : 山崎元氏のインデックス投資ナイト出演が実現!
大変楽しく拝見いたしております。
愚直な質問なのですが、リスクのあり方として、
+3%のリターンが通常で、それに対して±5%のリスクがあると考えると、
-2%と+7%、のように考えています。
中長期的には株は上昇する“傾向がある”
という考えではおかしいのでしょうか??
期待リターン0%でリスクが±5ではただの博打、、かと。
Aoさん、こんばんは。その考え方は間違ってません。その場合、*全体の平均*では+3%のリターンで上昇する傾向はあります。
でも上記で書いたように、順調に1年目で3%、2年目で6.09%、3年目で9.27%と複利で増えるのは実は少数派。過半数以上の確率でそんなに(つまり3%ずつ)順調に増えたりしないのが現実らしい、というのが上記の例でいいたいことなんです。
イーノさん、こんばんわ。
今回の4人の人を投資した年と例えた場合、4年の内の3年は負ける、しかし1年は大勝ちするといった感じになるのでしょうか。
確かに私がダウ平均で行った結果でも半数は複利に届かなかったんですが、上のように例えてしまうと、なんか博打のように思えてきますね。
とにかく負けを少なくするのが成功の秘訣みたいになってきますね。
やすともさん、こんばんは。この例を年に例えていいのかどうか、実のところよく分からないんですよね。ただ、やはりリスクの高いものというのは、それだけ博打に近いものだし、リスクの高いものを保有し続けていれば、リスクはどんどん増えていくんだなあ、という当たり前のことを確認したのではないか、という気がします。
なので、負けを少なくする方法として、リスクが高いものに対して、どれだけの金額を賭けるのがベストなのか、というのを求めるケリー基準というのがあると、コメント欄で以前教えてもらったので、それもいずれは勉強したほうがいいかなあ、と思っています。
連載、大変興味深く拝見しました。
今まで、「長期投資でドルコストしていけば複利でお金が増えていく」と当然のことのように思い込んでいたので、投資に対する姿勢を根本的に再考するきっかけとなりました。
本当にありがとうございました。
結論に至るまでの過程が、大変transparentだったので、疑り深い僕でも納得することができました(笑)。
次の疑問は、今回の結論が実際の投資戦略にどのような示唆を与えるのか、ということですよね。
私の場合は、若いからといって大きなリスクをとっていたので、その考え方は改めなければいけないなと思いました。
投資の勉強をしすぎて、お身体を壊さないようにしてくださいね!
これからも応援してます!
http://www.fund-no-umi.com/blog/2008/11/post-915d.html
こちらの記事のコメント欄で、
>さらに、正規分布では+70%と-70%が同じ確率で発生することになりますが、期待値がプラスの証券に対して、本当に+70%と-70%はおなじ確率で発生するのだろうか? という直感的な疑問もあります。
と答えてらっしゃるのに、
「本当に+30%と-30%が同じ確率で発生するのだろうか?」
とは疑問に思わないんですか?
すみません。あげあしとりではないですよ。
jzmdさん、こんにちは。コメントありがとうございます。僕もできるだけ過程が分かるようにブログを書いてきたつもりだったので、Transparentだと言っていただけるのは最高の褒め言葉です。ありがとうございます。
Staygoldさん、するどい突っ込みありがとうございます。あのコメントを書いたあとずいぶん時間もたち知恵もついたので補足しますね。
まず、「期待値がプラスのときに、+70%と-70%は同じ確率で発生するのだろうか?」という疑問ですが、これは同じ確率では発生しません。たとえば、期待値が+5%なら、+5%を中心に±70%になるので、+75%と-65%が同じ確率で発生する、というのがいまの僕の理解です。過去の証券データからすれば値動きはおおむね正規分布するので、この計算で間違いないと考えています。これについては「投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい」のエントリで少し触れました。
http://www.fund-no-umi.com/blog/2008/12/post-c019.html
で、このページの上記のエントリでは、期待値を0と置いているので、そこに対して上下に正規分布するとすれば、+30%と-30%は同じ確率で発生するわけで、正しい前提の立て方だ。と思っています。
しかし、本当に正規分布を前提としていいのでしょうか?
つまり、期待値 0として、
基準価格 1000円の投資信託や株が
1990円になる(+99%)のと
10円になる(-99%)のは同じ確率
となりますが、
今回のエントリでは、正規分布を採用するのが現実に即していると理解して宜しいでしょうか?
素人の考えで恐縮ですが、なかなか理解に
及ばず質問させていただきました。
補足*
株の場合は長期上昇バイアスがあるので
期待値 年利20%とした場合、+119% と -119%に分布すると、
1000円の株が
2390円になる確率と
10円になる確率が同じとなります。
(一年で株が2倍弱になるのと、倒産する確率が同じ感じです)
違っていたらすみません。
nukosさんこんにちは。↓をどうぞ。
「投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい」
http://www.fund-no-umi.com/blog/2008/12/post-c019.html
うーん、あまりこの著者の説明方法は好きではないです。
というのも、コメント欄で指摘されている方がおりましたが、
・期待リターンがゼロでリスクあり
というところで仮定が変です。
さらに、
・生起確率が50,50
も個人的にはどうかとおもいます。正規分布が100%絶対だ、ということを言うつもりはありませんが、発生する期待収益と確率は正規分布を仮定すれば、結果の見え方が違います。
この方法でよく使われるのは、「平均○%、リスク×%の分布に従うランダムなリターン」をもとにX年間運用したときのシミュレーションです。
1000回がキリがいいので私は使いますが、例えば5年間のリターン上位5%、25%、50%、75%、95%の値を求めます。それぞれ5番目/1000、25番目/1000の値です。
恐らく、50%値は複利より下回りますが、75%値では長期投資の恩恵(単年ベースよりリターンが高くなる)を享受できるのではないでしょうか。
(少なくとも、私のシミュレーション結果はそうでした。95%値ではほとんど同じでしたが・・・)
金融工学は素人ですので間違っているかもしれませんが,確率モデルの応用としては,上記の例題は個人間のリターンの依存関係をリアルに表現できていない点にまず問題があると思います.たとえば,インデックス投資の場合だと.同時期のリターンは個人間でかなりの正の相関があるはずです.それを各人について独立事象として扱ってしまうから一人勝ちが出てくるのでは?
また,そもそも「平均○%、リスク×%の分布に従うランダムなリターンをもとにX年間運用」というアプローチ自体,時間的な依存関係が考慮されておらず,理論的に大きな穴があるように思えてなりません.
セルさん、こんばんは。そういったシミュレーションに近いこともしているので、他のページをぜひ読んでみてください。
bonfireさん、こんばんは。僕が知る限り、各年ごとのリターンは独立して計算するもの(依存関係はない)というのは金融工学的には基本的な考え方だと理解しています。
イーノさん
ご回答ありがとうございます.
「各年ごとのリターンは独立して計算する」のは,それが正しいからというよりも,実際上それしかできないからではないでしょうか?もちろん,短期の,単一投資主体の予測ならそれでもかまわないでしょうが,長期や多数の投資者の予測では,何を計算しているのか分からなくなるのではないかと危惧します.現在の金融工学そのものの限界かもしれません.
なるほど、今回のエントリ
『リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む』
のは、
●期待リターンがゼロでリスクあり
●生起確率が50,50
という、二つの前提が必ず正しい世界内でのお話なのですね。
分かりやすい説明ありがとうございました。
しかし、他のページでもっと有意義な研究をされていますね。そういったものを合わせて考えてみるとどうなるんでしょうね。
たとえば、エントリでは
+n と -nというケースを取り上げられましたが
+ n分の1 と - n分の1
を前提とすれば、
『リスクがあっても、複利はひとり勝ちを生まない』
という記事が書けますね。
例にあげられた本は単純化してはいけない所を単純化してしまっているように思えてなりません。
すみません、思いっきり間違えました(..;;
誤 + n分の1 と - n分の1
正 ×(n) と ×(1/n)
でした。
bonfireさん、こんばんは。
もし年ごとのリターンに依存性があるとして、例えば10%下がったら次の年は5%あがりやすいとか、2年連続で上がったら次の年はさがるとか、そういう現象(アノマリー)があるとしたら、それは必勝法としてそれを発見した人によってサヤ取りに利用され、それゆえにその現象は消えてしまうと考えられています。僕の理解ではこれを「効率的市場仮説」と呼び、金融工学の土台ともなっているよく知られる理論のはずです。これによって、もし依存性はあったとしても消えてしまうため、ゆえに依存性はほぼない≒リターンは期間ごとに独立だ、と思っています。ぜひ効率市場仮説に触れてみてください。
nさんこんばんは。僕が行ったほかのページのシミュレーションとこの例は整合していると僕は思っています。期待リターンが0でなくても成り立つと思いますよ。ぜひ計算してみてください。生起確率が上下で同じになるはずなのは金融工学的にはコンセンサスなので、それについては↓こちらをどうぞ。
http://www.fund-no-umi.com/blog/2008/12/post-c019.html
イーノさん
以下,しばらく見ていなくて気の抜けたコメントですみません.
一般常識としてマルキールもエリスもシーゲルも読んでいますから,「効率的市場仮説」はもちろん知っています.しかし,これは市場全体のマクロな確率モデルにあてはまることと理解しています.上のコメントで私がいいたかったのは,そういったマクロなモデルを「時系列とサンプル空間に対して不変」な確率モデルとして個別の投資者の時間積算されたパフォーマンスに乗算的に適用していいのかということで,「効率的市場仮説」の成否や市場のアノマリーの有無の問題とはまったく別の次元の話と考えています.いわば,シミュレーションの前提の妥当性です.
しかし,最近のイーノさん自身のコメントにあるベムさんの説明が,ある部分では近いことを指している気がしますので,イーノさんの今後の検討に期待してこの件のコメントは終わりにします.
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