2008年12月10日

推測:投資信託を長期保有したとして、複利にとどく確率は?

投資信託を長期保有したとしても、必ずしも順調に資産が増えていくわけではありません。何年も不況が続けば元本割れする可能性だってあるし、好調が続けば何倍にもなるかもしれない。でも長期保有していたらせめて期待リターンの複利には届きたいですよね。

今回は、前回のシミュレーション「投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション」をもとに、複利にとどく確率を調べてみようと思います。

例によって、前回のおさらいをざっくり。まず、期待リターン10%、リスク0.33333の投資信託を想定しました。これを20年保有したらどうなるか、というシミュレーションを3000回行いました。3000回もやれば、好調が続いたケースもあれば、不況が続いたケースもあります。いろんな結果が得られました。というのが左のグラフ。

Simul51

で、どれだけばらつきがあったのか、というのを見たのが右のグラフ。1年目は3000回それぞれの結果はある程度の範囲に集中しているので、グラフが細く高くなっていますが、年を重ねるごとにどんどん結果は分散してグラフが平たく低くなっていくのが分かります。詳しくは前回の記事をご覧ください

この3000回のシミュレーション結果を、5年ごとに平均値、標準偏差、中央値、10%複利の表にしてみました。

1年目5年目10年目15年目20年目
平均値1.1101.6402.6424.3576.927
標準偏差0.3381.2433.0737.10513.214
中央値1.0631.3231.6812.2382.894
10%複利1.11.612.5934.1776.727

さて。10年目を分かりやすく太字にしてみました。このデータに従って、平均が2.642、標準偏差が3.073の対数正規分布のグラフを描いてみましょう。このグラフは、10年目のリターンの理論的な結果のばらつきを表しています。横軸にリターンの結果、縦軸がそのリターンに収まったシミュレーションの回数と見立ててください。実際のシミュレーション結果のグラフでもいいのですが、少しガタガタしてみにくいので、理論値のきれいなグラフで代替したわけです。

Simula52

これをみると分かると思うのですが、期待リターン10%、リスク0.3333..の投資信託を10年保有した場合、1万円で始めた投資が10年目では2万円から3万円ぐらいに増えるケースが最も頻発しており、右側になだらかになっていますので、それ以上に増えたケースもそれなりに発生していて、15万円やそれ以上になっているケースも少数ですが発生していることになっています。

で、このグラフに描かれた(右端はとぎれていますが)理論的なシミュレーション結果全体の理論的な平均は2.642です。10%複利の結果とほぼ一緒ですから、10年の運用結果は平均でみれば全体では複利で増えているはずなのです(まあ、期待リターン10%でシミュレーションしたので当然といえば当然な気もしますが)。

でも、3000回のシミュレーションのうち、実際に複利を超えたのは何回なのでしょうか? 実はこれも数式で理論的に計算することができます。

Excelの関数にlognormdist関数があります。この関数に、上記のグラフの対数正規分布の平均と標準偏差、そして値を入れると、その値以下になる確率を計算してくれるのです。というわけで、計算してみましょう。平均と標準偏差は変換してあります。変換の式は、どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのかを参照してください。

=lognormdist(2.642,0.5141,0.9366)≒68%

で、計算してみるとなんと! 68%のケースが複利に届かないのです。残りの32%の中にとても儲かったケースがあって、それが平均を引き上げていることになるわけです。なんかグラフをみるとホントかいな? という気もしますので、やや自信がないのですが……。分かりやすいように2.5のところに縦線引いてみました。

追記:3000回のシミュレーションの結果を実際に数えてみました。平均2.6以下の回数は2062回=68.7%で、やはり計算は合っているようです。

もちろんこのケースは、リスクが0.3333なんていうわざと大きなリスクを設定していることが響いていると思うのですが、おそらくほとんどのケースで実は計算上も過半数を超える人が複利に届かないことになるんじゃないでしょうか。

このことは、この調査を始めた最初の頃のシミュレーションでも出ていた結果なわけですが、このlognormdist関数を使うと複利に届かない割合の理論値を計算できるようになったので、以前より説得力が増したのではないでしょうか。

そろそろこの調査も一区切りつけようかと思い始めているところですが、次回からはTOPIXとかMSCIコクサイ指数などの実際のインデックスを使ってのシミュレーションに挑戦して、その結果を少しみてみたいなと思っています。

このテーマの記事一覧
第1話:緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
第2話:再考:株式投資に複利効果はあるのか?
第3話:改題:投資信託の長期投資は複利なのか?
第4話:追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第5話:さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第6話:中間報告:投資信託の長期投資は複利なのか?
第7話:どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのか
第8話:長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう
第9話:投資信託を長期保有したら複利になるのか、の参考文献
第10話:投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション
第11話:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第12話:続:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第13話:投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい
第14話:リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む
第15話:TOPIXを20年保有したシミュレーション。元本割れの確率は?
第16話:高いリスクこそが破壊的な結果をもたらすのではないか
第17話:まとめ:長期保有のリスクとリターンについて分かったこと(前編)
第18話:まとめ:もしくは再検討の予告

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6.投資方法・ドルコスト平均法

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COLE (2008/12/10 8:39:31)

対数正規分布の平均値(イーノさんが「複利に追いつく」と書かれている目標値)と中央値(儲かった順に並べて丁度順位が真ん中の人の投資成果)の差にσが現れていますので、毎年のリターンのばらつきの大きさの分だけ、中央値は平均値より小さくなります。
かと言ってσは誰だって小さくしたいわけですから、自分だけσを小さくする方法はありません。

というわけで、中央値を平均値に追いつかせる、と考えるより、
平均値のことはおいといて中央値を大きくするにはどうすればよいかを考えると面白いと思います。(ここでKelly基準が出てきます)

預金王 (2008/12/10 12:39:12)

>Kelly基準

興味深いですね^^
ギャンブル(投資??)に1000万突っ込むとしたら、200万程度がよいそうですよ・・
http://www.geocities.jp/y_infty/management/max_loss.html
>同じような間違いをしても、損失についてのミスの方が結果に響いてしまう


これを見たら、どの評論家が正直者(売り手の儲けを考えない)かわかりますね(笑)

田舎のKen (2008/12/10 22:27:27)

こんばんは。

シミュレートお疲れ様です。今回のシリーズ、すごくわくわくしながら読ませていただいています。

つきましては、このシリーズの最初の記事についてTBさせていただきましたので、よろしくお願いします。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/11 1:04:30)

えー本日は本業が忙しくてブログに全然とりかかれなかったので更新は明日になります。さて。

COLEさん、いつもコメントありがとうございます。1つ前の記事の「正規分布の標準偏差で代替できるか」についてもよくわかりました。考えが甘かったですね。極限定理もそういうことなのかと。いつも勉強になります。

預金王さん、こんばんは。Kelly基準、たしかに興味深いですね。ひとやすみしたらそっちも調べてみようかな....なんて。

田舎のKenさん、楽しみに読んでいただいてるなんてうれしいです。僕もワクワクしながら調べて書いてます! 睡眠時間を削って...。しかしですね、実はですね、やっぱりコムズカシイことを書いているせいか、あんまりPVはよくないんですよね、このところ。まあ、気にしないで続けますけどね!いや、ちょっと気にしますけど :-(。

ではまた。木曜日中にはなんとか次の更新をしたいものです。

やすとも (2008/12/11 1:26:49)

イーノさん、こんばんわ。

今回の複利効果のシリーズは、論文にもなる感じですね。
私としては、TOPIXや日経平均がシミュレーションでも説明できるのかを期待しています。

この記事とはちょっと話題がズレますが、以前長期保有で解析したダウ平均を、ドル・コスト平均法で行った場合の解析をしてみました。



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