2008年12月 3日

中間報告:投資信託の長期投資は複利なのか?

投資信託を長期で保有した場合、数年後のリターンの平均すなわち期待値は、その投資信託の1年間の期待リターンの複利である。ただし、リスクすなわち結果のばらつきは長期保有すればするほど大きくなり、しかも複利を下回る可能性が高い。複利を上回る可能性は低く、大儲けできる可能性はさらに低いがゼロではない。そして、これらの可能性全体で期待値を計算すると、期待値は複利と同一となる。

これが、僕がシミュレーションによって求めてきた、投資信託を長期保有したときにそのリターンがどうなるかの(いまのところの)結論です

シミュレーションの方法は間違っていないと思うので、この結論も大きく間違えているとは思っていません。とはいえ、こうした解釈は僕がいままで接してきた情報とは異なるものもあり、シミュレーション直後はいまひとつ結果に自信が持てませんでした。これまで接していた情報とは、例えば「長期投資ではリスクは軽減されるものだ」「長期投資では結果は期待リターンに収れんしていく」といったもの。

そこでこの結果が正しいのかどうか、いくつか情報をあたってみた結果、正しさをサポートしてくれるような情報がありました。

まずは、「レポート情報/ホンネの投資教室/”マネー運用感覚”速習入門講座 楽天証券」から、少し長いですが引用。この情報はコメント欄で教えていただきました。

たとえば100万円の投資金額が1年後に予想額から、平均すると上下に10%変動するような資産があるとする。この資産の収益率は大まかにいって2年後には上下に14万円強変動するだろう。これを1年あたりに直して「2年間運用すると1年あたり7%強変動する」と見るとリスクが小さくなったように見えるが、実際の運用資産額の取りうる範囲を見ると、1年の10万円が2年では14万円強になっており、運用期間が長くなるほど変動は大きくなっており、つまりリスクは大きいということだ。

太字は僕が入れました。わが信頼する山崎アニキが「長期では変動は大きくなっている」と言っているのですからそれは間違いないでしょう。

あのツヴィ・ボディ先生の著作「証券投資」にも、このような記述がありました。「付録C:時間分散の誤り」から引用。

時間分散はリスクを軽減しない。1年当たりの平均収益率は、投資期間が長くなれば、より小さな標準偏差を持つことは真実であるが、長年の間に不確実性も累積されることも真実である。残念なことだが、後者の影響の方が優勢であるために、全体の収益は投資期間が長いほどより一層不確実になる。

専門書っぽい硬い表現ですが、要するに投資期間を長くすれば、結果は平均収益率におさまっていく可能性は高まるが一方でばらつきも大きくなる。そしてばらつきのほうが優勢である、と言っています。

それから、やすともさんのブログ「バリュー志向の資産運用」のエントリ検証:過去の長期投資に複利効果はあったのか。では、ダウ平均の80年分の実データを用いて分析をしています。

今回の結果は長期になるほど標準偏差が大きくなっています。10年保有に至っては、山の形状が失われつつあります。したがって、長期保有だけではリスクは軽減しない、むしろ増大します。

と、長期保有ではリスク増大が観測されました。一方で、平均と中央値に関しては次のように観測されました。

少なくても1928年以降のある時点からDJIAのインデックスを保有した場合、そのリターンの中央値は複利の結果とほぼ一致していた。ただ、ばらつきがありますので、約半分は複利効果以上の結果が得られた、残りの約半分は福利効果に到達しなかったとも言えます。

これについては僕のシミュレーションとは一致していませんが、少なくともシミュレーションと大きくかけ離れたわけではないため、現実のデータのぶれの範囲だろうと僕は解釈しています。それに最も興味深いことに、現実のデータでも複利効果がほぼ確認できています。机上の空論じゃないってことですね。

ただし、これまでの情報ではサポートされていない僕のシミューレーション結果があります。それは長期保有の結果が複利を下回る可能性が高く、複利を上回る可能性は低い。ということ。ただし、期待リターンのおかげで元本割れの可能性はどんどん下がっていきます。

しかしこの結果も正しいのではないかと、僕はいま考えています。もう少し時間をかけて、前回のシミュレーションを分析するといろいろ興味深い内容が引き出せるのではないかと思っているのですが、それはまた次回以降で。

ここで一旦、これまでのエントリを時系列でまとめておきましょう。

このテーマの記事一覧
第1話:緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
第2話:再考:株式投資に複利効果はあるのか?
第3話:改題:投資信託の長期投資は複利なのか?
第4話:追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第5話:さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第6話:中間報告:投資信託の長期投資は複利なのか?
第7話:どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのか
第8話:長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう
第9話:投資信託を長期保有したら複利になるのか、の参考文献
第10話:投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション
第11話:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第12話:続:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第13話:投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい
第14話:リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む
第15話:TOPIXを20年保有したシミュレーション。元本割れの確率は?
第16話:高いリスクこそが破壊的な結果をもたらすのではないか
第17話:まとめ:長期保有のリスクとリターンについて分かったこと(前編)
第18話:まとめ:もしくは再検討の予告

[関連カテゴリ]
6.投資方法・ドルコスト平均法

[広告]

[ブックマーク]  Yahoo!ブックマークに登録

≫次 : どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのか
≪前 : さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?

のら (2008/12/04 0:16:08)

吉本佳生先生の「金融機関のカモにならない! おカネの練習問題50」でも、イーノさんが至った結論と同じことを解説していました。

長期で運用すると、年平均収益率は一定の範囲に収まってきて一見リスクが減るように見える(金融機関の主張)。

しかし、複利で運用されるわけだから資産総額では大きく増えた人と、増えなかった人の差が大きくなる(金融機関があまり言いたくないこと)。

と主張し、年平均の期待リターンが一定に収斂するかのような金融広告に警鐘をならしておりました。

収入などでも同様ですが、(資産運用においても)平均が中位値を上回る。つまり、ほとんどの人は平均ほどのリターンが得られない、と言う結論は私も見た記憶がなく非常にショッキングなシミュレーションになりましたね。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/04 0:48:34)

のららさん、こんばんは。コメントありがとうございます。紹介いただいた本、立ち読みしたことがありましたが、このことも載っているんですね。購入を検討したいと思います。

それと、FPの資格を持ってらっしゃるのらさんでも、「ほとんどの人は平均ほどのリターンが得られない」という結果は初耳だったんですね。いやはや、僕もこの結果がいちばんショックでした。それだけに、これをサポートしてくれる情報はないだろうか(あるいは合理的な反論でももちろんOK)、というのがこれからの課題になりそうです。もし情報ご存じでしたらお知らせを!

COLE (2008/12/04 8:41:49)

> それだけに、これをサポートしてくれる情報はないだろうか(あるいは合理的な反論でももちろんOK)、というのがこれからの課題になりそうです。もし情報ご存じでしたらお知らせを!

逆にお尋ねしたいのですが、これまで私が書いたコメントではどういう面が欠けていますか?
分量、詳しさとして、山崎氏や吉本氏の本と比べて圧倒的に足りないのは認めますが、
私のコメントに反論なさるのではなく別の情報を求められるという事は、私のコメントはイーノさんが必要となさっている事を満たしていないという事ですよね。
それは何なのだろうか?ということに興味があります。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/04 10:54:04)

COLEさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。

それなりに投資を勉強してきたつもりの僕でも、「長期でリスクは増える」という議論はこのエントリ本文でとりあげたように見たことがあっても、「投資家の過半は複利に届かない」という主張を見たことはありませんでした。なので、その複利に届かない、という点については特に、まだまだ情報を集めたいという欲求は高いです。

というわけで、ほかの情報を求める理由はいくつもあります。思いつく順で。

1)COLEさんからいただいた情報だけではまだ僕が理解できないため。これは単に僕がCOLEさんが書き込むことをそのまま理解できるほど詳しくないためですね。ですから、別の情報だけでなく、理解を助ける情報でもいいわけで、もっとかみ砕い説明がここにある、とか、別の方法で同じような答えにたどり着いた例があるとか、そういうのでもいいわけです。

2)複数の見方がほしい。例えば今回の「値動きは一般的には正規分布に似てるけど、そうでもない」とか、効率市場仮説みたいに、おおむねそうだけど言い切れないし専門家の意見が全部一致しているわけではない、だから他の意見も知っておいた方がいい、というケースがありますよね。今回がそういうケースに当てはまるとしたら、いろんな意見があるならそれも知っておきたいのです。

3)上記に関連して。近いうちにブログに書こうと思っているのですが、これは実は、ツヴィ・ボディ先生の「長期でリスクは減らない」vsジェレミー・シーゲル博士の「長期では結果は収束していく(とかそれに近い視点)」というディベートに、知らないうちに僕も紛れ込んでしまったようなものです。専門家(それもポール・サミュエルソン氏の弟子であり一流の)にもいろんな意見と分析があるわけで、そういったものを広く知りたいなあと(二人の論文や書籍はすでに入手しています)。

4)「過半は複利に届かない」が正しいとしても、僕が(そしてのらさんも)なかなかショックだったように、読者も「僕が調べた結果がこうだった」では(残念ながら)あまり伝わりそうにありません。これからもことあるごとにこの結果を読者に伝えていくことになるとすれば「僕の調査の結果は」というだけではなく「専門家もこう見ている」という情報があったほうが伝えやすいし、説得力もあるし、読者も納得しやすいのは間違いないです。どうせならそうやって、説得力のある形で伝えたい。だからそういう材料をできるだけ集めたい(これが数学なら、僕の証明と専門家の証明は同じ強さなんですけどね)。

といったところですかね。

預金王 (2008/12/04 15:27:50)

おもしろくなってきましたね^^;

インデックスブロガーも評論家同様、見極めが大切かもしれません・・
(もちろんここは参考になります)

株式(リスク資産)の複利についてはアテになりません!米国市場は単に右肩上がりだったので、効率市場仮説を利用して投信の売り込みに使われたのだと思います。

もちろん・・株式投資は有効だと思いますが、絶対増えるとは限りません。
そういえば、山〇元さんはギャンブルと云ってますね^^

COLE (2008/12/04 22:35:15)

なるほど、
確かに私の書き込みも、説明が十分なだけでなく、
あちらこちらの本で見たことを学生時代に勉強した数学で組み合わせたものであって、
「この本を見れば私の言っている事は全部詳しく書いてある」という本はないですね。

人に説明するときの参考になります。ありがとうございました。

staygold (2008/12/04 22:42:08)

こんばんは
正直、乱数発生の式について、私の数学脳では理解できてないので、検討はずれの事を言っていたらすみません。

そもそもこの乱数は、「平均リターンを10%」として入力したなら、「リターンの平均が10%」になるような乱数なんじゃないでしょうか?

もしそうだとしたら、5000本のシミュレーションの平均リターンと複利のリターンがウソみたいに一致しているのも説明つきますし。
また、coleさんのコメントにも有った通り
「損益は左右対称ではありません。損失は投資額に限定されますが利益はいくらでも大きくなる可能性があるので。
このような偏った分布なら中央値と平均値は一致しません。」
になると思います。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/04 23:05:02)

預金王さん、こんばんは。まあつねに複利ってわけには行きませんよね。

COLEさん、どういたしまして。

Staygoldさん、こんばんは。ご指摘のこと、おっしゃるとおりだと思います。もっとも、僕も素直に「そうなってるだからそういう結果になるのは当然だ」といま思えるのは、シミュレーションをさんざんやって、方法や結果について吟味して理解が深まったからなんですよね。

シミュレーションする前は、やはり「本当に平均は複利で続くのだろうか?」「左右非対称の確率での投資を繰り返したら結果はどうなる?」というのは、予想はできたとしても(予想すら僕にとっては難しかったですが)、それが合っているかどうかはまったく自信がありませんでした。

いまなら、staygoldさんが作られた「投信リターンシミュレーション@ランダム」でF9を連打したとき「どうも低い結果が多いような気がする」という理由もちゃんと説明できます(過半数は複利に届かないんですから)。なので答えについては徐々にですが確信を深めているところです。staygoldさんのExcelやブログも参考にさせていただき、ありがとうございました。

通りすがり (2008/12/05 0:15:24)

通りすがりですがちょっとグラフの読み方が分からなかったので質問させて下さい。
グラフに5000本位ある一本一本が2008年11月の積み立て分、2008年12月の積み立て分という認識でよいのでしょうか。それでもって、大半の積み立て分は複利分におっつかないけど一部の積み立て分が複利分をそれなりに上回るので平均すると複利分くらいに落ち着いて、なので、それなりに時間分散させて投資をすると複利分位のリターンがそれなりの人にとって期待できるので、ドルコストお勧め!といった感じの認識でよいのでしょうか。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/05 0:35:11)

通りすがりさん、こんばんは。このグラフは積立はまったくしていません。最初に買って、そのままずっと保有していたらどうなるか、ということをシミュレーションしたものです。なので、ドルコストは基本的には関係ないです。

staygold (2008/12/05 0:59:15)

一連の記事、参考になりました。
定期預金などと違って、株や投資信託のリターンは、一本の線ではなく今回のシミュレーションのように面で捉えた方が良いなと改めて思いました。

今回のシミュレーションは
「株式投資のリターンは対数正規分布になる」「将来のリターンの期待値の平均は、(過去の値動きから計算した)期待リターン通りになる」
という二つの仮定(金融の世界で一般的に言われている仮定)を基にしたシミュレーションだったと思いますが。

じゃあ実際のとこどうなの?本当に対数正規分布になってたの?本当に過去リターンから想定されるようなリターンになってたの?
と言うのが知りたいです。それについてデータと共に書かれていた文章は読んだことがないです。あっ別にイーノさんに調べろって言ってるわけでないですよ(笑)

まぁどっちにしても、「長期になるほど1年当たりのリターンのブレは小さくなる。しかし投資期間トータルでのブレは大きくなる」っていう結論は変わらないと思いますが。

通りすがり (2008/12/05 1:27:50)

質問の仕方が悪くて済みません。一本のグラフについて積立ではないのは理解しております。
一回一回の積み立てを全く別の投資と捉えて、そのそれぞれの投資が一本のグラフに相当すると考えたらどうなるのかなぁと思った次第です。横軸の期間はそれぞれの積み立て開始からの期間ということにしてしまうといいのではないかと思いました。
このケースとはずれますが、毎月ウン万円をウン年間積み立てた場合の期待リターンというのも世の中に出回っていると思うのでそれも実際に積み立てた場合の中間値と平均値が結構ずれたりするのかなあと疑問に思ったりもしたので質問してみました。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/05 2:42:28)

staygoldさん、こんばんは。実データでの調査、「証券投資」にも多少書いてある程度で、本格的に調べた書籍は僕も見たこと内ですね。ジェレミー・シーゲル博士の本はどうだろう。

通りすがりさん。積立で考えるとまた複雑なシミュレーションになりそうです...。積立にしたところで、おっしゃるように平均値と中央値はずれるでしょうね。

通りすがり (2008/12/06 2:39:28)

度々すみません。月々の積み立ては確かに大変そうなので、年一回の積み立てで管理人さんの作ったシートをいじってシミュレーションしてみました(5年くらいだと分かりずらいので20年くらいに伸ばして見てみました)。
「正規乱数×前年の残高」を「正規乱数×(前年の残高+積み増し額)」に変えてみてみました。
結果としては平均値(≒リスクゼロの場合の値)と中央値はやはり離れており、離れ具合も一括投入した場合と同じような感じになりました。かい離が少なくなってくれると嬉しかったのですがちょっと残念です。
よう考えがまとまらないうちに質問したりしてお騒がせしました。では。

やすとも (2008/12/06 3:34:55)

なるほど、積み立てた場合のシミュレーションですか、大変そうだけど面白そうですね。
私のダウ平均での検証では、長期積立をリスク低減と決め付けてしまいましたから、ちょっとまずかったかなと思っています。リスクは、積み立ててもほとんど変わらないではないかと思い直してます。
ただ、ブログの方は、複利効果から一旦離れて、ドル・コスト平均法に話題を変えています。

ノブ (2013/06/30 22:39:29)

長期投資の複利効果について質問です。
長期投資のメリットについて、株式投資で10年以上保有すると期間収益率が安定し、プラスを維持するようになるとの説明があります(平均への回帰)。投資信託でも長期投資により期間収益率がプラスに安定後は、再投資による複利効果が必然的に現れると思われますが、



[トラックバックURL]
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/36569/43312563


[コメントを書く]

名前:
Mail:  (必須です。ダミーでも可)
URL:  (必須ではありません)