2008年12月 2日

さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?

投資信託を5年、10年と保有したとき、そのリターンは、よくいわれているように複利で増えていくものなのでしょうか? この単純な問いに、しかし苦労してなんとか答えを出そうとしています。その結果は!

これまでは、1年後の投資信託の価格は正規分布に従うという前提でシミュレーションしてきました。そのシミュレーションが間違っていなければ、期待リターンが10%、リスクが33%の投資信託を5年間保有する、ということを5千回繰り返してみた結果はおおむね次のようでした(改題:投資信託の長期投資は複利なのか? 参照)。

1)5年後のリターンを5000回繰り返してみた平均値は、ほぼ複利で増えたのと同様でした。
2)しかし、中央値でみると5000回のうち半数以上は複利に届かない結果でした。

今回のエントリでは、この結果の精度をさらにあげるべく、今度は投資信託の1年後の価格が対数正規分布に従う、という前提でのシミュレーションをしてみました。

その前に、対数正規分布とはどういうものか、簡単に正規分布のグラフと比較してみました。左が正規分布、右が対数正規分布です。みれば分かるとおり、正規分布は左右対称で、中央が平均値ですが、対数正規分布は左右非対称で、平均値と中央値は異なります。しかも正規分布は0以下になる可能性が0ではありませんが、対数正規分布は0から始まるので0以下の値にはなりません。

Simula21

そして前回のエントリ(追求:投資信託の長期投資は複利なのか?)で書きましたが、投資信託などの価格の変動は正規分布よりも対数正規分布に近いとのことでした。

ということで、対数正規分布を使ったシミュレーションの結果を見てみましょう!

今回も下記の条件でシミュレーションします。

(a)期待リターンが10%、リスクが0.33333...の投資信託を想定します。すなわち、この投資信託は、年後に10%値上がりしそうだけれども、1年後にだいたい0~200%のあいだで価格変動します。価格の変動は、今回はもちろん対数正規分布に従うとします。

(b)上記の対数正規分布に従う乱数を用意して、この投資信託の1年後の価格をシミュレートしてみます。そして、そのまま保有したとして、2年後、3年後から5年後までの価格をシミュレートします(分配金はださないということで)。

(c)このシミュレーションを5000回繰り返して、5000回の平均値や中央値を見て、期待リターン10%の複利にどれだけ近いのかを検証してみます。

まずは、5000回のシミュレーションのうち、任意の250回を抜き出して価格の変化をグラフ化してみました。

Simula22

1年目は想定どおり、おおむね0~200%の範囲に分散しているのが分かると思います。2年目は結果のばらつきが広がり、それが3年目、4年目、5年目とどんどんばらつきが大きくなっていくのが分かります。

では、ばらつきの具合を度数分布表(とはい折れ線グラフ)で見てみましょう。5000回のシミュレーションのばらつき具合です。

Simula23


この分布を見て分かるのは、対数正規分布に従った結果、1年目から分布が左右が非対称になっているということ。そして……やはりピークはあまり右に移動していませんね。

5000回のシミュレーションの平均値と中央値なども見てみましょう。

1年目2年目3年目4年目5年目
平均値1.1081.2101.3311.4591.601
中央値1.0511.1121.1731.2261.296
標準偏差0.3220.5270.7260.9381.140
10%複利1.11.211.3311.4641.61

5000回のシミュレーションの平均はおおむね複利に追いついていますね。一方で、中央値は複利よりも低い値になっています。中央値というのは5000回のシミュレーションの結果を並べて2500番目の値のことですから、少なくとも2500番目までの半数とそれ以上の回数が、複利を下回っているようです。ついでにExcelの関数で5000回のシミュレーション結果の標準偏差も求めてみました。1年目は0.3333にほぼ合っていて、徐々にばらつきが広がっている感じが分かると思います。

それにしてもうーん、まいりました。このシミュレーションがただしければ、つまりこういうことですよね? 「この投資信託を5年保有したとき、そのリターンは平均すれば10%の5年複利と同じ結果が期待できる。ただし、結果の半数以上は複利以下の結果でありことはほぼ間違いない、平均が複利に追いついているのは、わずかな確率だが大儲けできる可能性があるからだ」と。ざっくりいえばハイリスクハイリターンになっているってことですよ。

この結果でいいのでしょうか。うーん、まだ確信は持てないのですが、それでも精一杯、自分が正しいと思われる方法でシミュレーションしているつもりです。うーん。

ひとまず、本日はここまで。シミュレーションに使ったワークシートも公開します(ココログの容量制限で3000回のシミュレーションに縮小したファイルです)。次回は、このシミュレーションの核となった、対数正規分布に従う乱数の発生について触れておきます。うーん。

このテーマの記事一覧
第1話:緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
第2話:再考:株式投資に複利効果はあるのか?
第3話:改題:投資信託の長期投資は複利なのか?
第4話:追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第5話:さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第6話:中間報告:投資信託の長期投資は複利なのか?
第7話:どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのか
第8話:長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう
第9話:投資信託を長期保有したら複利になるのか、の参考文献
第10話:投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション
第11話:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第12話:続:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第13話:投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい
第14話:リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む
第15話:TOPIXを20年保有したシミュレーション。元本割れの確率は?
第16話:高いリスクこそが破壊的な結果をもたらすのではないか
第17話:まとめ:長期保有のリスクとリターンについて分かったこと(前編)
第18話:まとめ:もしくは再検討の予告

[関連カテゴリ]
6.投資方法・ドルコスト平均法

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COLE (2008/12/03 0:01:43)

対数正規分布になる理由、対数正規分布に従う乱数の作り方は既に書いていますが、コメントに書いた文量だけでは分かりにくいですね。
本を探してみたのですが、そのものズバリ書かれた本は見つかりませんでした。

対数正規分布になる理由を大雑把に理解するのに必要な知識としては、log(xy)=log(x)+log(y)という高校で習う公式と、中心極限定理で十分です。
別に0以下にならないように対数正規分布を使うわけではないです。0以下にならない分布は他にもありますので。
また株価の動きは完全にランダムではないので、対数正規分布にぴったり一致するわけではありませんが、そんなに大きく外れたりはしませんし、少なくとも正規分布よりは近いです。

> 「この投資信託を5年保有したとき、そのリターンは平均すれば10%の5年複利と同じ結果が期待できる。ただし、結果の半数以上は複利以下の結果でありことはほぼ間違いない、平均が複利に追いついているのは、わずかな確率だが大儲けできる可能性があるからだ」

これで間違いないです。以前も書いたように、損益は左右対称ではありません。損失は投資額に限定されますが利益はいくらでも大きくなる可能性があるので。
このような偏った分布なら中央値と平均値は一致しません。

Cielo (2008/12/03 0:03:07)

2年以上前から、イーノさんのブログから勉強をさせてもらっていますが、初めて、コメントします。

今回のシリーズも、読み応えがあり、次はどうなるのだろうという
ワクワク感を共有させてもらっています。
寒い時期になりましたので、どうぞお体に留意されて、頑張ってくださいね。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/03 0:42:59)

COLEさん、こんばんは。たびたびのコメントありがとうございます。それから書籍もさがしてくれたんですね、重ねて感謝です。

おっしゃることは、相変わらず数式的に考えることはできませんが、対数の概念もなんとなく頭に入ってきたし、分かるつもりです。中心極限定理って、sean.さんのコメントにもでてきた用語なので、調べてみようと思います。

それにしても、長期ではある程度リターンが収れんしてもいいように思うし、発散したり高頻度で複利に追いつかないケースが発生することは、理屈では分かる気がしても、いままで信じてたことが裏切られたような気もして、まだ僕の中で釈然としないものがあるのは確かなんですよね。

ほかの視点からこの問題を捕らえた資料も発見したので、もう少しいろいろ考察しようかなと思っています。

Cieloさん、こんばんは。長年のご愛読ありがとうございます! ってことは、これまでの論文翻訳とか調査とかツール作成とかの記事なども読んでいただいてたってことですよね! ありがとうございます。

こうやって理屈っぽく、素朴な疑問をああでもない、こうでもないと調べるのにお付き合いいただけるなんて、書いてるほうも励みになります。っていうか、これを楽しんで読んでいただけた、っていう人がいただけでも僕としてはびっくりの嬉しさです。

引き続き、気が向くかぎりお付き合いいただけますと幸いです

ああ今日もブログで夜も更けていく…

COLE (2008/12/03 9:18:31)

> それにしても、長期ではある程度リターンが収れんしてもいいように思うし、発散したり高頻度で複利に追いつかないケースが発生することは、理屈では分かる気がしても、いままで信じてたことが裏切られたような気もして、まだ僕の中で釈然としないものがあるのは確かなんですよね。

例えば山崎元さんの「長期投資でリスクは縮まない」が分かりやすい説明だと思います。
https://www.rakuten-sec.co.jp/ITS/investment/yamazaki/in05_report_yamazaki_02_05.html

シミュレーションなさった5000人の、5年間のリターンを5乗根を計算して年率換算リターンにして、それと1年目のリターンを比べれば、長期ではある程度リターンが収れんすると言えるでしょう。
また、中央値で見ると1年目は+5.1%から5年目は+29.6%ですので5.8倍ですが、標準偏差は3.54倍ですので、リスク対リターンは5.8/3.54=1.6倍改善しています。

やすとも (2008/12/03 20:35:23)

イーノさん、毎日シミュレーションお疲れ様です。
私のブログで、過去のDJIAのデータから長期投資は複利の効果があったのかを検証しました。結果としては、少なくても1928年以降のDJIAにおいては中央値で複利効果を確認できました。確認してみて下さい。
まだブログを始めたばかりで、読みにくいとは思いますが、シミュレーションの参考になれば、幸いです。



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