2008年12月18日

投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい

一般に、多くの書籍では投資信託のようなポートフォリオのリターンは正規分布に従うと書いてあります。これは、現代ポートフォリオ理論の前提にもなっている考え方なんですね。

例えば、証券アナリストの教科書的な書籍「証券投資論」の103ページには次のように書いてあります。

幾人かの先駆的研究によって、日次、週次、および月次の投資収益率は正規分布(normal distribution)によって近似できることが明らかにされている。

リターンが正規分布に従うのはもはや常識、という感じです。

ところが、これまで僕は、正規分布ではなく対数正規分布に従うとしてシミュレーションをしてきました。少しその理由をここで補足しておきたいと思います。

最初、僕はセオリーどおりに正規分布に従ったリターンを前提にシミュレーションをしていました(「緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?」参照)。

ところが、このときのグラフを見ても分かるように、シミュレーションを繰り返すうちにいくつかのリターンがマイナスになってしまいました。実際には、どんなに損をしても投資信託の価格は0が最低で、マイナスになることはありえないはずです。

これはシミュレーションのやり方がおかしいのだろうと調べた結果、エントリ「追求:投資信託の長期投資は複利なのか?」で調べたように、対数正規分布を使えばよい、ということが分かったわけです。

なぜ対数正規分布なのでしょう? それは単に、リターンがマイナスになるのを防ぐだけではなく、実際に正規分布より対数正規分布のほうが、より現実のポートフォリオのリターンに近いと考えられているらしいからです。

書籍「証券投資(上)」にはこう書いてあります。

個別の株式の収益率が正規分布するという仮定には理論的反対がある。それは、株価が負の値をとることがないことを考えると、正規分布が保有期間収益率を典型的に示す分布となり得ないというものである。
(略)
これに代替する仮定は、連続複利年率の収益率が正規分布するというものである。
(略)
短期の保有期間、つまりtが小さな値のとき、(数式略)正規分布は、対数正規分布の良い近似となる。

というわけで、正規分布は正しくないんだけど、短期で考えると正規分布は対数正規分布の近似だからそれでよい、ということらしいのですね。

書籍「現代ポートフォリオ理論講義」では、新日鐵の1991年から2005年までの株価を検証して、次のように説明しています。

たとえば新日本製鐵(以下、新日鐵)の月次収益率が正規分布するかとう検証が必要である。
(略)
全体としては正規分布に近いともいえるが、左右対称ではなく左にすそ野が広くなっている。最頻値(モード)は平均値より左にある。 正規分布ではない可能性もあるので改良を要する。
(略)
このような分布をする確率変数の場合、対数正規分布である可能性がある。

と、実際のデータが対数正規分布に従うような結果でることを示しています。ここで紹介したのは実際に僕が購入した本からで、それ以外にも書店で立ち読みした数多くの専門書では、ポートフォリオのリターンは、短期では正規分布だが長期では対数正規分布だ、ということで一致していました。

僕が「長期保有でのリスクとリターンはどうなるのだろう?」という疑問のために、対数正規分布を用いてシミュレーションしたのはそれほど間違いではないはずなのです。

ところが。実は厳密に見るとポートフォリオのリターンは対数正規分布でもない、という意見が最近あるそうです。その名も「ファットテール」。

正規分布や対数正規分布では、値動きが大きくなるほど、それが起こる確率はぐっと少なくなります。例えば、投資信託の価格が突然2倍になることは、まれにはあったとしても、5倍になることはほとんどありませんよね。そういうことを正規分布や対数正規分布は数式で示しています。

しかし現実にはそういう極端な変化が高い頻度で発生しているらしいのです。

書籍「ファイナンス理論の新展開―価格変動の謎を探る」では、次のような説明があります。


日次ベースなどのある一定のタイミングで市場価格変動を計測すると、その価格変動の分布は、1次、2次までのモーメンタムを一致させた、すなわち原データの同一の平均μと分散σ^2を持った正規分布と比較して、裾が厚くなることを確認できる。これをファット・テールとよぶ。

だそうです。もう一冊、「経済物理学の発見 」から。

変位の分布が正規分布ならば、この図からもわかるように、標準偏差の五倍の変位でも実現する確率は100万分の1(10^-6)以下です。正規分布には大きな変位の出現する確率が急速に小さくなる特徴があるからです。しかし実際の市場の変位はそれよりもはるかに大きな変動が起きています。

まあ、ここまで厳密に考えると僕の手には負えないわけですが、なかなか金融工学というのは面白いなあと勉強するたびに思いました。この2週間で僕はこのテーマの本を10冊以上買ってるのですが、今日もまた一冊買いましたが、そのお話は次回に。

このテーマの記事一覧
第1話:緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
第2話:再考:株式投資に複利効果はあるのか?
第3話:改題:投資信託の長期投資は複利なのか?
第4話:追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第5話:さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第6話:中間報告:投資信託の長期投資は複利なのか?
第7話:どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのか
第8話:長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう
第9話:投資信託を長期保有したら複利になるのか、の参考文献
第10話:投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション
第11話:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第12話:続:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第13話:投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい
第14話:リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む
第15話:TOPIXを20年保有したシミュレーション。元本割れの確率は?
第16話:高いリスクこそが破壊的な結果をもたらすのではないか
第17話:まとめ:長期保有のリスクとリターンについて分かったこと(前編)
第18話:まとめ:もしくは再検討の予告

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6.投資方法・ドルコスト平均法

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預金王 (2008/12/18 16:37:00)

>変位の分布が正規分布ならば、この図からもわかるように、標準偏差の五倍の変位でも実現する確率は100万分の1(10^-6)以下です。

標準偏差は過去の事例のみで判断しているところに、決定的な欠点があると思います。
そのため、何百年に一度という理論になってしまい、ギャンブル(不確定な賭け)をしてしまうのです・・

VaR(バリューアットリスク)http://www.azsa.or.jp/b_info/keyword/r_var.htmlは、起こる筈もないリスクを想定しながら、(予測ではなく)管理していくのがベターでしょうね^^;



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