2008年12月 6日

長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう

これまで投資信託を長期保有した際の値動きは本当に複利になるのか? リスクはどうなるのか? ということについて7回に渡ってシミュレーションなどをしてきました。今回はそれを公式化してみます。

シミュレーションについて振り返ってみると、期待リターンが10%、リスクが0.3333...の投資信託を想定して、これを5年間保有した場合に想定されるさまざまな値動きを5000回シミュレーションしました。値動きは、対数正規分布に従うと想定しています。

その結果、下記のように元本割れするケースや、ものすごく儲かったケースなどさまざまなケースが発生しました。

Simula22

その分布を見てみると、年を追うごとに徐々にグラフが左右に伸びて、儲からないケースから儲かるケースまで差が広がっていく様子が分かりました。基本的にはグラフは右方向に伸びて、儲かるケースが徐々に増えていく感じでした。

Simula23

5000回の平均値と中央値、標準偏差は次のようになっていました。

1年目2年目3年目4年目5年目
平均値1.1081.2101.3311.4591.601
中央値1.0511.1121.1731.2261.296
標準偏差0.3220.5270.7260.9381.140
10%複利1.11.211.3311.4641.61

長い前振りでしたが、ここまでがシミュレーションの振り返りです。

そして今回は、このシミューレションの結果を公式化するのが目的です。公式化すれば、期待リターンがX%でリスクがY%の投資信託の、N年後の平均的なリターンとリスクが計算で求められるようになります。

まず前提として、何年保有していようとその投資信託の値動きは対数正規分布に(もしくは正規分布でもいいですが)従うこととします。理由は省略しますけど、いいですよね? どの金融の本をみても、投資信託の値動きは正規分布で近似されています。ここでは正規分布よりもより現実の値動きに近いと言われている対数正規分布を採用します。

この前提が成り立てば、何年後であろうと投資信託の結果は「平均」と「標準偏差」という2つの数字を使った式で表すことができます。はい。

ではまず、N年後の「平均」について考えてみることにしましょう。上のシミュレーション結果の表の平均値の行をみてみてください。1年目の平均値(=リターンの平均値)は、「10%複利」と書いた項目、すなわち期待リターンにほぼ一致していますよね。2年目の平均値はも「10%複利」にほぼ一致し、3年目も4年目も5年目も「10%複利」に一致しています。

てことは、こういうことがいえそうです。

・ リターンの平均値は、何年後であっても複利の結果に一致する

その複利の結果とは、次のように計算できます。期待リターンが10%(=1.1)の場合

0年目のリターンは1(元本)
1年目のリターンは1*1.1=1.1
2年目のリターンは1.1*1.1=1.1^2=1.21
3年目のリターンは1.21*1.1=1.1^3=1.331
4年目のリターンは1.331*1.1=1.1^4=1.464

こういう感じになります。ですから、式で表すとこうなりますよね。

N年目のリターンの平均値=期待リターン^N

次はリスクを求めてみます。リスクは標準偏差で表せるので、とにかく上の表の標準偏差の行をじっくり見てみましょう。なにか規則性はないでしょうか。

1年目2年目3年目4年目5年目
標準偏差0.3220.5270.7260.9381.140

1年目の0.322は、当初のリスク0.3333..の誤差の範囲です。2年目の0.527、3年目の0.726はどう考えればいいでしょう?

山崎元の記事「ホンネの投資教室 第三十四回 資金運用における短期と長期について」にヒントがありました。一部を抜粋しましょう。

富の額のばらつきは、2年間の運用だと、1年間の運用の約1.414倍だし、4年間の運用だと2倍になる。

2年で1年間の1.414倍、ということは√2倍ということですよね。4年で2倍ということは(√2)^4=2倍ということかな?

追記:コメントでご指摘いただきましたが↑上記の計算(√2)^4=2は間違ってますね。

ちょっと計算してみましょう。1年目のリスクは0.3333。2年目は√2倍して0.471、3年目は0.471を√2倍して0.6666。山崎氏の説明とは1年ずれていますが、この方法がシミュレーションの数字に近いような気がします。

これを式にすると次のようになります。

N年目の標準偏差=リスク*((√2)^(N-1))

念のため上記の計算とシミュレーションの数字を比べてみましょう。「標準偏差」が、シミュレーション結果の標準偏差、「計算結果」が、上記の式による計算結果です。

1年目2年目3年目4年目5年目
標準偏差0.3220.5270.7260.9381.140
計算結果0.3330.4710.6660.9431.333

誤差を考えればそれほど悪くなさそうです。ひとまずこの計算を採用しましょう。

これで、投資信託のリスクとリターンが与えられると、N年後のリターンの平均値と標準偏差(ばらつき)を次の式で求めることができるようになりました(あくまで仮説です)。

N年目のリターンの平均値=期待リターン^(N)
N年目の標準偏差=リスク*(√2)^(N-1)

シミュレーションで用いた期待リターンが10%、リスクが0.3333...の投資信託を想定して、この式によって5年間のリターンの平均値と標準偏差を基にした対数正規分布のグラフを描いてみましょう。

Simula31

シミュレーションのグラフと見比べてみてください。なかなかいいセンいってますよね? 次回は、もう少し別のシミューレションを行ってみたりして、仮説として作ってみたこの式が本当に使えるのかどうか、いくつかの結果と比べてみようかなと思っています。

追記:上記の式はあくまで仮説だということが分かるように、いくつかの文を書き直しました。

このテーマの記事一覧
第1話:緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
第2話:再考:株式投資に複利効果はあるのか?
第3話:改題:投資信託の長期投資は複利なのか?
第4話:追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第5話:さらに追求:投資信託の長期投資は複利なのか?
第6話:中間報告:投資信託の長期投資は複利なのか?
第7話:どうやって投資信託の値動きのシミュレーションをしたのか
第8話:長期保有の値動きシミュレーションを公式化してみよう
第9話:投資信託を長期保有したら複利になるのか、の参考文献
第10話:投資信託を長期保有したらどうなるか、20年分のシミュレーション
第11話:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第12話:続:その投資信託のN年後のリスクを計算する方法(概算で)
第13話:投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい
第14話:リスクがあるとき、複利はひとり勝ちを生む
第15話:TOPIXを20年保有したシミュレーション。元本割れの確率は?
第16話:高いリスクこそが破壊的な結果をもたらすのではないか
第17話:まとめ:長期保有のリスクとリターンについて分かったこと(前編)
第18話:まとめ:もしくは再検討の予告

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6.投資方法・ドルコスト平均法

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やすとも (2008/12/07 2:21:23)

イーノさん、こんばんわ。

標準偏差の式ですが、実際にはそれほど複雑ではなく、直線のようですよ。イーノさんのシミュレーション結果、私のダウ平均から求めた結果ともにグラフを書いてみたら、ほとんど直線でした。
明らかに原点を通っていない点が、納得できていないんですが。

アルビレオ (2008/12/07 2:42:48)

>4年で2倍ということは(√2)^4=2倍ということかな?

これだと、2年目は(√2)^2=1倍になっちゃいます。
おそらく山崎さんの想定していた式は、N年目の標準偏差=リスク*(√N)じゃないかと。
これなら2年目は1.414に、4年目は2になります。
この場合年間の標準偏差を0.333とすると、
1年目:0.333 2年目:0.471 3年目:0.577 4年目:0.666 5年目:0.745
シミュレーション結果と大きく違いますが、対数正規分布だと数字の大きい方へのぶれが大きくなるので、その分だけ標準偏差の値も大きくなるのでしょうね。
ちなみにこの数式の場合、時間が経つほどリスクは確実に増えるけど増える量は確実に小さくなってグラフの傾きは水平に近づく対数曲線になります。

ところでシミュレーション結果による標準偏差ですが、それぞれの年の増分が
1年目→2年目:.205
2年目→3年目:.199
3年目→4年目:.212
4年目→5年目:.202
と、だいたい毎年0.2ずつ増加しています。
5年分では少なすぎるのでもっと先に伸ばしてみないと結論は出せませんが、対数正規分布の累積だと年ごとの標準偏差は単純な等差数列になってるってことはないでしょうか。
もしそうなら複利の期待リターンは等比数列なので、「十分に長期の投資はP/Rの視点で見れば相対的にリスクを小さくする」といえそうな気がします。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/07 11:11:16)

やすともさん、アルビレオさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

お二人とも「標準偏差は等差数列かも」という可能性を指摘されてますね。僕も、どんな可能性も否定できないので、これからシミュレーションを何通りかしてみようと思います。

本当は数式をどんどん展開、変形して答えを導いていければいいのでしょうけれど、なかなかそんな知識はなくて。どなたか詳しいひといたらコメントおねがいしまーす!

COLE (2008/12/07 11:44:12)

> 富の額のばらつきは、2年間の運用だと、1年間の運用の約1.414倍だし、4年間の運用だと2倍になる。

アルビオレさんの仰るとおり、これは単利(足し算)の場合の、N年間の運用だと1年間の運用の√N倍のことです。

複利(掛け算)の場合は一般的な公式はないですが、対数正規分布なら
以前引用なさった「エクセルを用いた対数正規分布の計算」のページに書かれていたの公式
平均 μx = exp(μ+σ^2/2)
分散 (σx)^2 = μx^2( exp (σ^2) - 1 )
に、対数をつけて足し算にした場合はN年だと平均も分散も1年のN倍になる、つまりμやσ^2をN倍したものを代入します。
すると平均はイーノさんの計算どおり
リターンの平均値=期待リターン^(N年目)
になります。分散はズバッと簡単な式にはなりませんが、exp(x)=1+x+x^2/2+…という展開式を第二項で打ち切るという荒っぽい近似をすれば、exp (Nσ^2) - 1≒Nσ^2なので分散は平均の二乗*N*σ^2、つまり標準偏差は平均*√N*σになります。
ここでのσは対数正規分布にLogをつけた元の正規分布のσです。
1年目のケースで考えると1.1*σ=0.3333ということで、σ=0.3くらいでしょうから
N年目の標準偏差=N年目のリターンの平均値 * √N * 0.3
で近似できます。

ファンドの海管理人(イーノ) (2008/12/07 12:56:21)

よ!COLEさん、待ってました! 解説ありがとうございます。相変わらず途中の式が全部分かるわけではありませんが、勉強のとっかかりの参考と、今後の調査の指針になります。

平均のほうはまあ間違いなかろうと思ってましたが、標準偏差のほうは複雑ですな。そうか、平均値というパラメータが入るんですね。いかにもな感じがしてきました。

それと、対数正規分布のときの幾何平均(≒最頻度値)の出し方の情報をもしご存じでしたら、なにかご教示いただけるとうれしいです。

ところで。なんか対数正規分布だと難しすぎるので、正規分布に戻して考えてみようかなあとも思ってます。だれとはなく。

staygold (2008/12/07 14:50:56)

こういった試み、すごくおもしろいと思います!

ただ、今回のシミュレーションを理由にして
「リターンの平均値は、何年後であっても複利の結果に一致する」とするのは、論理的にちょっと強引かなと思います。

前回コメントした事の、一部が伝わってなかったみたいなので、もう一度書きますと。

そもそも今回シミュレーションに使った乱数は、「平均リターンを10%」として入力したなら、「リターンの平均が10%」になるような対数正規分布乱数なんですよね?

対数正規分布でも正規分布でも全くのランダムな分布でも、平均が10%になる乱数をリターンとして使ってシミュレートしたら、5000本の1年後のリターンの平均が+10%になるのは当然です。2年目のリターンの平均も+10%になるので、2年間の累計のリターンの平均が1.21になるのも当然です。そういった動きになるだろうとの前提で組み立てたシミュレートなんですから。

なんか、否定的な書き方になってしまいましたが、前提と結果の関係がごっちゃになっているかなと思っただけで、こういう風に公式化してみようっていう試みは面白いと思いますし、興味深いです。

アルビレオ (2008/12/07 15:34:19)

staygoldさん
>「リターンの平均値は、何年後であっても複利の結果に一致する」とするのは、論理的にちょっと強引かなと思います。

まあ、今回のトピックに限ればリターンよりもリスクの計算方法の話ですから。

複利の期待リターンをまじめに考えると、確率で重み付けした積分で考えなきゃいけない気がするので、あのブラック・ショールズ方程式のような確率微分方程式で計算しなきゃいけないのかなぁ。

ちなみにブラック・ショールズ方程式では期待リターンをゼロと仮定して、さらに確率分布は対数を取らない単純な正規分布として計算しています。
これは本来オプション取引のプレミアムを計算するための式なのでそれほど長期の計算はしない(≒対数にしなくても差し支えない)ということにして計算を単純化しているのだと思いますが、逆に言えば対数正規分布だと計算がもっと複雑になるってことだろうから、かなり大変そうですよねぇ。

>平均が10%になる乱数をリターンとして使ってシミュレートしたら、(略)+10%になるのは当然です。

そもそも現実の結果から平均リターンと標準偏差を取り出して、それを元にモデルを構築するという手法自体の限界ですね。
この問題を解消するには、モデル構築のためのパラメータとして何を使えばいいのか、というところから検討しなくてはいけません。
そこまで行くともう、学術的な論文として発表してもいいくらいの高度な話になりそうです。

staygold (2008/12/07 20:33:41)

>今回のシミュレーションを理由にして
「リターンの平均値は、何年後であっても複利の結果に一致する」
とするのは、論理的にちょっと強引かなと思っただけであって、


「リターンの平均値は、何年後であっても複利の結果に一致する」という仮定を使って話をすすめるのが、強引だと言っているわけではないですよ。

アルビレオさんのおっしゅる通り、今回の記事の本題とははずれてますし、わざわざコメントするほどでもなかったかもしれません。こうるさくってすみませんです。今回のシミュレーション自体を否定したかったわけではないですし、この記事を否定したかったわけでもないですよ。

あまり複雑に厳密に計算しても、実際のリターンは理論値ぴったりとはならないと思ってますので、有る程度の割り切りは必要だと思います。

「証券分析 上」おもしろそうですね。でも値段が。。

COLE (2008/12/07 21:29:48)

幾何平均=中央値の筈です。
幾何平均はLogをつけて対数の算術平均を求めてLogを外す(Expをつける)ので
「エクセルを用いた対数正規分布の計算」の記号を使うなら
exp(μ)
になります。
そして正規分布は算術平均=中央値で、中央値は単調変換でそのまま移りますのでこれは中央値でもあります。
一方最頻度値は密度関数を微分して0とおいて
exp(μ-σ^2)
の筈です。すみません、ちゃんと計算していません。

> なんか対数正規分布だと難しすぎるので、正規分布に戻して考えてみようかなあとも思ってます。

株のチャートで縦軸を対数にすることもありますよね。
これは1円の時に1円上がって2円になるのも、1万円の時に1万円上がって2万円になるのも同じだからです。
だから「株価の分布を対数正規分布で近似する」と考えるのではなくて「株価の対数の分布を正規分布で近似する」と考えて、株価の対数だけを考えれば、対数正規分布なんかを考える必要はありません。


アルビレオさん
ブラック・ショールズでは幾何ブラウン運動を考えますので、対数正規分布です。



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