2009年02月14日

連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式

元本が1万円、期待リターンが年10%、リスクが30%の金融商品があったとします。この金融商品の20年後のリターンとリスクを教科書どおりに計算してみましょう。

金融工学はしっかりとした学問ですから、当然のように教科書や参考書のようなしっかりとしたテキストが数多く存在します。例えば、僕が買ったことのある本では日本証券アナリスト協会編「証券投資論」、ツヴィ・ボディ著「証券投資(上)(下)」などがあります。

僕はこれまで本屋さんんで立ち読みしたり、実際に購入したりしてこうした専門家向けの本に何冊も目を通してきたのですが、1年間やもっと短い期間での金融商品のリスクとリターンを扱った計算は数多く出てくる一方で、僕が知りたくてこの連載で調査している、長期保有した場合のリターンやリスクの求め方についての解説を見つけることはできませんでした。

そんななか、長期でのリスクの計算式をばっちりと載せてくれた本を見つけました。社団法人 金融財政事情研究会刊「基礎から学べる投資・運用関連数式集」です。

Books0812b

この本の106ページ「リスクの年率換算」にこう書いてあります。

【1】複数期間のリスク
(1)n期間の分散=1期間の分散×n
(2)n期間の標準偏差=1期間の標準偏差×√n

リスクは一般に標準偏差で表していますので、(2)式が使えそうです。

n期間の標準偏差=1期間の標準偏差×√n

ちなみに、107ページには次のような例題も載っていました。

(例2)年間リターンのリスク(標準偏差)が5%のポートフォリオに4年間投資する場合のリスク(標準偏差)を求めなさい。
「解」 5%×√4=10%

この式にならえば、元本が1万円。期待リターンが年10%、リスクが30%の金融商品があったとすると、これを20年間保有したとしたら、リスクは次の式で表せますね。

20年間のリスク=30%×√20≒134%

20年間保有した時のリスク、すなわち値動きの大きさは134%と計算できました。

ちなみに、20年間保有したときの最終的なリターンを、元本をもとに期待リターン10%の複利で計算すれば、6.73万円ということになります。

これで20年間保有したときのリターンとリスクを求めることができたのでしょうか。そして、リターンが複利を上回る確率はどうなるのでしょう? 次回はそれらをシミュレーションで確認する方法について考えます。

この連載のバックナンバー
早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」

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ベム (2009/02/14 14:58:28)

n期間の標準偏差=1期間の「標準偏差」×√n

ではないでしょうか?

連載楽しみにしています。

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/02/14 17:40:37)

ベムさんご指摘ありがとうございます! その通りでした、写し間違えました。修正しました。
連載、ぜひ楽しみにしていてください。途中でベムさんの書かれた以前の調査の、僕なりの解釈についても言及する予定です。

COLE (2009/02/14 17:59:04)

n=1を代入すれば、ベムさんの仰るとおりだと確認できますね。

20年間保有した場合のリスク134%は当初元本1万円に対する134%でしょうか?大雑把に言って67300円±13400円。
期待リターンが15%でリスクが同じなら20年で163665±13400円。
金額が増えてもブレは変わらない、ということで良いのでしょうか?

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/02/14 21:19:47)

COLEさんこんばんは。リスクの134%というのは標準偏差が134%という意味なので、ご指摘のような計算とはちょっと違うんです。ぜひ調べてみてください。
このあとの連載では、標準偏差からグラフを描くので、そこで目に見えるような形になると思います。

吊られた男 (2009/02/15 22:24:30)

(水を差すコメントでスミマセン)

単年度の期待リターン/リスクの積み重ねを長期の推定に使うこと自体の妥当性はどうお考えでしょう。

3年連続で株価が50%上がってきた時と、3年連続で株価が10%下がってきた時で、その翌年に株価が50%上がる確率は同じでいいのでしょうか?


「株価の平均への回帰について記述があったぞ?」と思って、『リスク』を読み返してみたのですが、この中でライヘンシュタインとドーセットの研究成果を引用しており、株価変動には平均への回帰が認められると主張されています。


確かにコイン投げのように単年の株価推移が完全に前年までと独立していれば"期待リターン○%、リスク○%"で単純に計算してその期間の長さの分だけリスクも大きくなると言える思うのですが、そもそもその大事な前提がどうなっているのかな・・・と。

COLE (2009/02/16 9:29:25)

±13400円というのは大雑把に言い過ぎましたね。
期待リターンが年10%から15%に変われば、20年後の期待金額が当初元本の673%から1637%まで変わるのですが、リスクの134%とは何に対する134%なのでしょうか、ということです。
当初元本に対する比率でしょうか、それとも20年後の期待リターンに対する比率でしょうか。

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/02/16 12:11:53)

吊られた男さん、こんにちは。

>3年連続で株価が50%上がってきた時と、
>3年連続で株価が10%下がってきた時で、
>その翌年に株価が50%上がる確率は同じ
>でいいのでしょうか?
(略)
>株価変動には平均への回帰が認められ
>ると主張されています。

なるほど。少し考えてみました。僕のやろうとしているシミュレーションおよび計算の前提は、収益率が将来も正規分布すること、現在の1年あたりの期待リターンとリスクをそのまま長期にあてはめることです。

1)もし平均への回帰がなければ、気にすることなし。

2)もし平均への回帰があったとしたら。だとしてもそれが過去のデータに含まれているのだから、そこから導いた期待リターン、リスクにもその傾向が含まれているはず。そのままその値を用いて計算すればいいだけの話ではないか(ある程度の長期なら)。

3)平均への回帰まで考えると複雑すぎて僕の手に負えない :-)

どうでしょうね。前提の議論はそれなりに高度な議論ですね。

COLEさん、こんにちは。リスクは20年後のリターン(このケースでは6.73万円)に対するものですね。そしてこれは何かに対する比率ではなくて“標準偏差”という単位が134%ということなんです。ひとくちには説明しにくいので標準偏差についてぜひ調べてみてください。次のエントリでちょっと補足もしてみます。

吊られた男 (2009/02/16 22:29:55)

イーノさん、

意地悪なコメントへの丁寧な返信ありがとうございます。

前出の研究で10年でのリスクは単年の5.7倍程度にすぎないという結果とのことでちょっときになってしまいました。
時間があれば私も自身で短期の積み重ねと実際の長期との差分を研究してみようかな・・・なんて思います。

吊られた男 (2009/02/18 23:13:06)

訂正です。


【誤】前出の研究で10年でのリスクは単年の5.7倍程度にすぎない

【正】前出の研究で8年でのリスクは単年の5.6倍程度にすぎない


うろ覚えでの書き込みには注意ですね。すみません。

ヴぁr (2013/02/19 20:09:29)

標準偏差σ*√(期間n)ではなく、√(標準偏差^2*期間n)=√(分散*期間n)がより正しいのでは?



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