2009年02月16日

連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化

元本が1万円、期待リターンが年10%、リスクが30%の金融商品を20年保有した際のリターンとリスクを前回は数式で計算してみました。今回はこれをグラフにして少し考えてみます。

前回の計算の結果によれば、20年保有した場合のリターンが6.73万円、リスク(=標準偏差)は134%ということになりました。それをグラフにするとこんな形になります。ちなみにこのグラフは、僕が作った「積立と複利計算」のグラフを加工したものです。

Graph_ret673_risk134

前回にのっとって計算してみましょう。1万円の元本が10%の複利で20年間順調に増えたとしたら、期待リターンは20年で

(1+10%)^20=673%

になります。元本が1万円ですから、6.73万円の結果ですね。

リスクは1年あたり30%ですから20年で(前回紹介した書籍の式にのっとると)こうなります。

30%×√20≒134%

この637%の期待リターンに対してリスクが134%だとすると、95%の確率で期待リターンが410%~936%のあいだに収まる計算になります。

これはExcelの次のような関数で計算しました。

期待リターン673%、リスク134%の場合の、リターンの上位97.5%点
norminv(0.0975,6.73,1.34) = 9.36

平均リターン573%、リスク134%の場合の、リターンの下位0.25%点
norminv(0.025,6.73,1.34) = 4.10

さて、グラフを見てお分かりのとおり、リスクのある金融商品では、「だいたいリターンはこの範囲ですよ」という確率でリターンを表すことになるんですね。今回は95%の確率で収まる範囲を表示してみました。この「範囲」の大きさを決定するのがリスク(=標準偏差)となります。

先日コメントで質問をいただいたので補足しておくと、「平均値が1万円でリスクが134%のときには、ブレの幅がプラス134%からマイナス134%なんでしょ? 」と思われがちですが、残念ながらリスク、すなわち標準偏差はそういう単純な計算ではないのです(これくらい単純だったら分かりやすくていいんですけどね……)。上記のグラフや計算で分かるように、標準偏差は確率分布の広がりを示す値なんですね。標準偏差の計算方法などを説明していると長くなってしまうので、詳しく知りたい方はぜひ確率統計の本とか金融工学の本などを参照してみてください。

この連載では、リスクや標準偏差が登場するときにはできるだけ一緒にグラフを示して、目で見てその広がりが分かるようにしたいと思います。

果たしてこのグラフは正しいのでしょうか? 次回は(次回こそは)、これをシミュレーションで確かめる方法について考えてみることにしましょう。

2008.2.18追記:
コメントを受けて、収益率を中心に少し式を追加変更しました。

この連載のバックナンバー
早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
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連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」

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COLE (2009/02/17 0:10:23)

>そしてこれは何かに対する比率ではなくて“標準偏差”という単位が134%ということなんです。

違います。あくまで元本に対する変動率に関して、期待値からの差の2乗の期待値の平方根なので、単位は元本に対する変動率のままです。
標準正規分布の97.5%点が
=NORMINV(0.975,0,1)

1.96。
リターンの期待値が673%、標準偏差が134%なので上側97.5%点は
673%+1.96x134%=935.64%
同じく2.5%点は
673%-1.96x134%=410.36%
なのです。

そこで私の疑問ですが、もし期待リターンが少し増えて年15%、リスクは変わらず30%だったなら
(そんな上手い話があるか、というツッコミもあるでしょうが、リターンの計測時期が違えばこれくらいありえます)
20年後の期待リターンは1637%、リスクは変わらず134%なので
97.5%点と2.5%は1637%±1.96x134%で1374%~1900%になります。
期待リターンは増えているのに幅は2x1.96x134%=525%のまま変わりません。
(四捨五入のため1の位が合いませんが気にしないでください)

これで良いのでしょうか?
元本1万円に対して、95%区間は期待リターンが10%なら4.10万~9.36万円、期待リターンが15%なら13.74万~19.00万円。
額が大きくなれば振れ幅も大きくなりそうな気がしますが。


もっとおかしいのは、
単利運用なら
・n期間の期待リターン=1期間の期待リターン×n
・n期間の標準偏差=1期間の標準偏差×√n
ですよね。期待リターンの計算でn倍しているのは元本超過分、つまりお使いの例では10%のn倍です。
そして複利運用なら
・n期間の期待リターン=1期間の期待リターン^n
・n期間の標準偏差=1期間の標準偏差×√n
とその本には書かれていますよね。今回は期待リターンの計算でn乗しているのは元本も含めた倍率、お使いの例では1.1の20乗です。

私の最大の疑問は、何故期待リターンの計算式が別物なのに、標準偏差の計算式は共通なの?

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/02/17 1:59:56)

COLEさんこんばんは。おお、するどいつっこみですね、僕よりずっと深く理解されているように思います。

ご指摘の質問、複利と単利のリスクの計算法についてはこの本に載っている式は僕も疑問に思っているし、ご質問の答えには僕も答えられないのです。なので、それを考える材料として、このあとの連載でシミュレーションして複利でのリスクについて検算しようとしているわけで(シミュレーションなので検算とは言わないと思いますが)。

一応これから、そのシミュレーションの妥当な方法について積み上げていくところです。まあ、ここまでは以前の連載でも通った道なんですけどね。ただ今回はその先を頑張って調べて書くつもりなので(だからこそ再開したわけで)、そのあたりまで引き続き見守ってやってください。

すけちゃん (2009/02/17 12:13:44)

初めてコメントさせていただきます。

前回の記事の書籍を読んではいないのですが、正規分布するのは金融商品の価額ではなくて、期待リターンではないのかなあと思います。

元本1、リターン年10%、リスク30%の金融商品の20年後の価額が95%で4.10~9.36の範囲というのは直感的にも違和感があります。
もっと儲かるときと元本割れのときもありそうな・・・。

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/02/17 13:19:40)

すけちゃんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

ちょっと本文中ではわかりにくかったですが、計算上は期待リターンを求めたうえで価格に直してます(期待リターンとして573%を正規分布の式に入れてますので)。

直感的な違和感、ありますよね。このあとのシミュレーションをぜひお楽しみにお待ちください。

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/02/18 12:46:53)

すけちゃんさんの指摘を受けて、収益率が変化するということを分かりやすくするために少し式を追加変更しました。コメントありがとうございました。

通りすがり (2014/04/27 0:21:57)

有益な情報ありがとうございます。

誤字指摘です。とても細かいのですが、初見で戸惑ってしまいました。

>> 期待リターン673%、リスク134%の場合の、リターンの上位97.5%点
>> norminv(0.0975,6.73,1.34) = 9.36
>> 平均リターン573%、リスク134%の場合の、リターンの下位0.25%点
>> norminv(0.025,6.73,1.34) = 4.10

は以下のようになるのではないでしょうか。

>> 期待リターン673%、リスク134%の場合の、リターンの上位97.5%点
>> norminv(0.975,6.73,1.34) = 9.36
>> 平均リターン673%、リスク134%の場合の、リターンの下位0.25%点
>> norminv(0.025,6.73,1.34) = 4.10



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