2009年02月18日

連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ

リスクのある金融商品を20年保有するシミュレーションを作ろうとしています。どう作ればいいのでしょう? 今回はその方法を考えます。

まずは、リスクのある金融商品を保有ことの具体例を考えてみます。

投資信託のようなリスクのある金融商品を保有していると、毎年のリターンはまちまちになりますよね。例えば、1年目は10%上昇し、2年目には景気が悪くなって5%下落し、3年目は持ち直して3%上昇……といった感じですね。

1年目の運用結果:元本1万円 ×(1 + 10%)
2年目の運用結果:1年目の結果 ×(1 - 5%)
3年目の運用結果:2年目の結果 ×(1 + 3%)


18年目の運用結果:17年目の結果 × (1 + 18年目の収益率)
19年目の運用結果:18年目の結果 × (1 + 19年目の収益率)
20年目の運用結果:19年目の結果 × (1 + 20年目の収益率)

つまり金融商品を20年間保有するシミュレーションを作るには、毎年の「収益率」をシミュレーションすることにほかならないわけです。

ところで、この金融商品について分かっていることは次の3つでした。

・ 元本が1万円
・ 期待リターンが年10%
・ リスクが30%

なぜこの金融商品の期待リターンやリスクが分かっているかというと、こいつの過去の毎年の収益率を集めて分析した結果なんですね。例えば、国内株式の代表的なインデックスであるTOPIXの期待リターンは、4.80%、リスクが22.15%であるとされていますが、これは過去35年分のTOPIXの収益率を分析して求められたのです(過去何年分さかのぼって統計をとるかによって期待リターンやリスクは変化しますので、ここでの値は例の1つです)。

この収益率、実は正規分布に従うということが、過去の株価などのデータを分析した結果から分かっています。日本証券アナリスト協会編「証券投資論」第3版 74ページから引用。

投資対象としての金融資産の収益率がどのような確率分布に従うかは数多くの実証研究が存在する。目下のところ、標準的な投資理論では、収益率の分布は正規分布(normal distribution)に従うものとして理論が構築されている

太字にしたところを繰り返しますが、「金融資産の収益率は正規分布に従う」ということだそうです。

そして、過去の収益率が正規分布に従うのだから、将来の収益率(期待リターン)も正規分布に従うだろう、というのが今回のシミュレーションのポイントです。ちなみに、こう考えて金融商品のシミュレーションを行うというのは僕だけの考えではなくて、金融業界一般でよく行われているようです(「モンテカルロ法で確認した」なんて文言は、要するにシミュレーションしてみました、という意味で論文中で使われたりします)。

では、期待リターンが年10%、リスクが30%の収益率が正規分布するというのはどういうことなのか、グラフに描いてみましょう。正規分布のグラフは「平均」と「標準偏差」の2つのパラメータが必要です。ということで、平均には期待リターン(10%)、標準偏差にはリスク(30%)を当てはめればいいわけですね。

N10_30_2

グラフには、95%の確率で収まる範囲と、30%の確率で収まる範囲を書き加えてみました。95%の確率で収益率は-49%~69%のあいだに収まり、しかも30%の確率で収益率は-2%~22%のあいだに収まることが分かります。

ちなみにExcelの以下の式で求めました。

norminv(0.025,0.1,0.3) = -0.49 (下位2.5%点)
norminv(0.975,0.1,0.3) = 0.69 (上位97.5%点)
norminv(0.35,0.1,0.3) = -0.02 (下位35%点)
norminv(0.65,0.1,0.3) = 0.22 (上位65%点)

つまり、この金融商品の期待リターンとリスクが変わらないとして、100年分の毎年の収益率を一覧表にして見てみると、-49%~69%がおおむね95回発生し、-2%~22%がおおむね30回発生するだろう、ということが予想されるのです。

これが「収益率が正規分布に従う」ということなわけですね。

ということは、こういった確率で数字を発生させれば、期待リターンが年10%、リスクが30%の金融商品の「収益率」のシミュレーションになるわけです。それを使えば、その金融商品を20年保有したときの(というか何年保有したときのでも)シミュレーションが作れますね。

次回はこれをExcelでシミュレーションする方法について考えます。

この連載のバックナンバー
早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」

[関連カテゴリ]
H.リスク資産の複利確率

[広告]

[ブックマーク]  Yahoo!ブックマークに登録

≫次 : 連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
≪前 : 連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化

預金王 (2009/02/18 13:32:28)

>「収益率が正規分布に従う」

水を差すわけではないのですが、コノ考え方自体に大きなリスク(危険)があると思います。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/kouza/a_guide/20090218-OYT8T00289.htm?from=os2
>>複利効果は下げる過程では生まれないので、元本が値下がりすることがない預貯金などとはこの点が大きく違う。

100年に1回というのは事実だとしても、数年前(2001~2003年)にもすでに暴落していますが。。
いかがなものでしょうか?

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/02/18 13:49:21)

預金王さんこんにちは。正規分布が投資家にとって望ましいかどうか(危険かどうか)、という議論は今回の記事の趣旨から外れるので、そこはおいといてください↓。
「連載の目的と前提」
http://www.fund-no-umi.com/blog/2009/02/1-a33d.html



[トラックバックURL]
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/36569/44101056


[コメントを書く]

名前:
Mail:  (必須です。ダミーでも可)
URL:  (必須ではありません)