2009年03月28日
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
ある金融商品の年利が分かれば、それに対する連続複利率が求められます。それもExcelで簡単に求めることができるところまで分かりました。今回はその連続複利を使っていろいろ計算してみましょう。
年利Rに対する連続複利率rを求める式は以下でした(連続複利って何だ?という方は、前々回、前回を読み返してみてください)。
r = loge(1+R) …(A)
eはネイピア数という2.71828…という数字でしたよね。
さて。logの仕組みをもう一回思い出してみましょう。まず、べき乗の式。
3 = log28
ってことは、変形してこうですよね。
8 = 23
だから、これをさっきの連続複利の式(A)に応用すれば、こうなるはず。
(1+R)= er
これって、実におもしろい計算ができるんです。実際の値を入れてみましょう。
年利10%のとき、連続複利率は9.531018%だと前回計算しました。ってことはこうなんですよね。
(1+10%) = e9.531018%
ね。年利は、連続複利を使った式に簡単に置き換えられるんです。eに2.71828…というネイピア数を入れるとちゃんと1.1になるので時間があったら計算してみてください。
1.1 = e0.09531018
ここからが面白いところですので、お見逃しなく! この年利10%の金融商品を2年保有していました。お金が10%の複利で増えますよね? ってことは、2年後の最終利回りは1.1の2乗ですよね。
2年後の最終利回り = 1.1 × 1.1 = e0.09531018 × e0.09531018
これ、変形するとこうなるんです。べき乗のところが足し算になるんですね。
2年後の最終利回り = 1.1 × 1.1 = e0.09531018+0.09531018
2年後の最終利回り = 1.12 = e2×0.09531018
2年後の最終利回りを求めたいとき、実は連続複利の式だと、連続複利率を2倍すれば求められます。
ちなみに、べき乗してある数字のかけ算とは、その乗数の足し算なんですね(この表現、正確かな?)。
32 = 25 = 22 × 23 = 22+3
さて、さきほど年利10%の金融商品を、こんどは3年間保有したら、最終利回りはどうなるかといえば、こうなります。
3年後の最終利回り = 1.1 × 1.1 × 1.1 = e0.09531018 × e0.09531018× e0.09531018
3年後の最終利回り = 1.13 = e3×0.09531018
ってことで、年利Rのときの連続複利率をrとすると、N年間保有したときの最終利回りはこうなるんですよ。
N年後の最終利回り = (1+R)N = eN×r
これ、別に複利じゃなくてもいいんです。1年目の利回りがR1、2年目の利回りがR2、3年目の利回りがR3の金融商品があったとするじゃないですか。それぞれの年の利回りR1、R2、R3に対する連続複利率r1、r2、r3を計算して求めたとしますよね? そうすると、こういう式ができます。
3年後の最終利回り = (1+R1)×(1+R2)×(1+R3) = er1+r2+r3
連続複利を用いれば、利回りは全部足し算で計算できるのです。これが連続複利の重要な特徴なんですね。いやー面白いですね。
さて、連続複利の説明を3回にわたってしてきました。なぜ連続複利について知る必要があったかといえば、それは、金融商品の値動きのシミュレーションについて、次の説明を理解するためでした。
・ シミュレートするのは株価ないし投信の基準価額の推移ではなく、収益率の推移とすること。
・ 収益率は連続複利ベースとすること。
「収益率は連続複利ベースとすること」ということは、シミュレーションするのが年率のRではなくて、rをシミュレーションする、ということなわけです。この言い方、よく分からないかもしれませんが、僕は分かったつもりなので、この説明は次回もういちどします。
とにかくこの知識を引っさげて、再びこの連載で追求しようとしている疑問「値動きのある金融資産を20年間保有したら複利でお金が増えるのかどうか?」について、次回からあらためて考えてみることにしましょう。
この連載のバックナンバー
・ 早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
・ 連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
・ 連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
・ 連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
・ 連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
・ 連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
・ 連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
・ 連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
・ 連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
・ 連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
・ 連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
・ 連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
・ 連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
・ 連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
・ 連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
・ 連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
・ 連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
・ 連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
・ 連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
・ 連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
・ 連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
・ 連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
・ 連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
・ 連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
・ 連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
・ 連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
・ 連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
・ 連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」
[関連カテゴリ]
・ H.リスク資産の複利確率
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NNM (2009/04/03 23:00:48)
初めまして
最近、こちらのブログを見始めた者です。
面白そうな記事なので、これからちょくちょく見させてもらいます。
複利の確率の記事は興味ありますので、ぜひ詳しくお願いします^^
通りがかり (2009/06/23 23:02:30)
> ちなみに、べき乗してある数字のかけ算とは、その乗数の足し算なんですね(この表現、正確かな?)。
正確に言うと、乗数ではなく”べき数”だと思います。
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