2009年03月 1日

連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」

投資信託のような金融商品を長期で保有したら、リターンとリスクはどうなるのか? そしてリターンが複利を超える確率はどうなるのか? 20年分のシミュレーションの結果をみてみましょう。

前回、Excelを使って期待リターンが10%、リスクが30%の金融商品を20年保有した場合のシミュレーションを5000回繰り返して求めてみました。そのシミュレーションを振り返ります。

まず、5000回繰り返したシミュレーションのうち200回分の値動きを折れ線グラフにしてみました。

Normdist500_01

いろいろなリターン、儲かったりそうでなかったり、実にいろんな範囲の結果になる可能性があることが分かります。10%以下に集中しているようにもみえます。

また、リターンのばらつきを度数分布を折れ線グラフにしてみると、次のようになりました。

Normdist500_02

こうしてみると、1年目はおおむね1.1あたりを中心にきれいに左右対称になった正規分布をしていますが、年を追うごとにグラフが平たくなってばらつきが広がっていくのが分かります。しかもどうやら中心が左側に、つまり低いリターンに移動していっているようにみえませんか?

つまりこのシミュレーションの結果では、年を追うごとにすごく儲かる一部の人が登場する一方で、多くの人は低いリターンのままでいる、というようにみえます。

数字として20年目のリターンとリスクを求めると以下でした。
20年目のリターンの平均: 6.891 = 6.891万円
20年目のリスク:12.399 = 1239.9%

(モンテカルロ法による)

ついでに20年目の「中央値」を求めると以下でした。中央値はMEDIAN関数で求めることができます。
20年目の中央値: 3.07 = 3.07万円

中央値というのは、5000回のシミュレーションを結果の悪いほうから並べて2500番目、ちょうど半分のところの値です。つまり、3.07万円を下回る確率が50%、上回る確率も50%ということです。

さて、10%複利で増えれば6.73万円だったはずの金融資産。シミュレーションでは3.07万円を上回る確率でさえ50%しかありません。20年目で中央値3.07万円ということは複利の6.73万円を上回る確率は、明らかに50%以下です。つまり、複利では増えない可能性のほうが高い、ということを示しています

ところで、この連載の第二回「連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式」では、参考書に載っている式によって、期待リターンが10%、リスクが30%の金融商品を20年保有した場合のリターンとリスクを、次の式で計算しましたよね。

20年目のリターン:元本をもとに期待リターン10%の複利で計算=6.73万円
20年目のリスク:30%×√20≒134%

シミュレーションの結果と比べて見てみましょう。リターンはまあそれほどかけ離れた数値にはなっていません。ところが、リスクは10倍近く異なっています。誤差の範囲などと言えるレベルではありません

リスクについては、参考書に載っていた計算式の結果と、シミュレーションの結果が全く異なっているのです。なぜでしょう?

そして複利では増えていかない確率のほうが高い、というのは本当でしょうか?

なぜ計算とシミュレーションの結果は違っているのでしょう? 僕のシミュレーションのやり方が間違っているのでしょうか? そして、長期保有したときに複利を超える確率は本当に過半数以下なのでしょうか?

連載7回目にして、この連載のテーマとなる「」がようやく登場しました。

前回の連載では、この謎が解けないまま最終回を迎えようとしていたときに、突如として参考書の結果と一致するようなシミュレーションを行った方が現れました。ベムさんです。

次回、この謎を解く手がかりとなるかもしれない、ベムさんのシミュレーションの調査に入ります。

この連載のバックナンバー
早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」

[関連カテゴリ]
H.リスク資産の複利確率

[広告]

[ブックマーク]  Yahoo!ブックマークに登録

≫次 : 連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
≪前 : 書籍「しぶとい分散投資術」に水瀬さんとybさん登場



[トラックバックURL]