2009年04月11日

連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション

ようやく連載の本筋に戻ってきました! ただいま! おかえり! 複数年に渡ってリスクのある金融商品を保有したときにどうなるのか、というシミュレーションを考えていたら、A方式とB方式があって、B方式を理解するためには連続複利の知識が必要だったわけです。

そのシミュレーションのA方式とB方式、どんなのだったか思い出してみましょう(詳しくは、連載7回、8回、9回、10回をお読みください)。

例として、元本1万円のある金融資産が1年目に20%値上がりし、2年目に10%値下がりしたとします。これをどうシミュレーションとして数式で表したでしょうか。

■A方式:値動きをシミュレーション

元本(1万円)×1.2×0.9=1.08

2年後の価格は1万800円になりました。

■B方式:収益率の推移をシミュレーション

0%(元本)+ 20%(1年目) +(-10%)(2年目)=10%

2年後にプラス10%になりました。

でもなぜB方式は収益率の足し算なんだろう? と思いますよね?

その謎が「連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?」で登場し、それを解くために連続複利について調べてきたわけです。

連続複利を理解したいまなら、その理由が分かります。B方式では、20%の値上がり、10%の値下がりは、年利ではなくて、連続複利率として計算したのです!

分かりますか?

ある金融商品が、1年目で年利20%上昇し、2年目で年利10%下落したら、2年後の金融商品の価値は、明らかに以下の式で表されます。

2年後の価値 = 元本 × 1.2 × 0.9 = 元本 × 1.08

さて、ここで連続複利の式を思い出してください。あるいは前回の記事「連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!」を思い出してみてください。

年利がRのとき、その連続複利率rは次の式で表せましたよね! (eはネイピア数といって2.71828…という数字です)

(1+R)= er  …(A)

例えば、年利10%のとき、連続複利率は9.531018%と計算できます。こんな感じ。

1+10% = 1.1 = e0.09531018 = 2.718280.98531018

じゃあ、1年目の年利がR1、2年目の年利がR2だとしましょう。すると、2年後の利回りRは次の式で表せますよね。

2年後の利回り =1+R = (1+R1) × (1+R2)

はい、これを連続複利の式(A)で置き換えてみましょう。r1、r2を、年利R1、R2に対する連続複利率とするとこうなります。

2年後の最終利回り =1+R = er1 × er2

2年後の最終利回りをRだとして、その連続複利率をrとすると、こうなります。

2年後の最終利回り =(1+R)= er = er1+r2


ね! ね! どうすか! するとこうなります。最終利回りの連続複利率(r)を表す式です!

r = r1 + r2

連続複利では、1年目、2年目の収益率を足し算することで最終利回りが計算できるのです!

これで分かりましたよね! B方式のシミュレーションというのは、収益率をすべて連続複利だと想定してのシミュレーション方式だったわけですよ。これで、B方式のシミュレーションを作成したベムさんの解説の意味が分かりました!

・ シミュレートするのは株価ないし投信の基準価額の推移ではなく、収益率の推移とすること。
・ 収益率は連続複利ベースとすること。

はい、連続複利を想定していたから、B方式では収益率を足し算して最終利回りを計算していたのです。ようやくB方式の謎が解けました。

この知識を用いて、もういちど、リスクのある金融商品を複数年保有したときのシミュレーションはどうあるべきなのか? について考えてみることにしましょう。

この連載のバックナンバー
早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
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連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」

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COLE (2009/04/12 6:50:20)

> 連続複利を想定していたから、B方式では収益率を足し算して最終利回りを計算していたのです。

連続複利を想定することが一番のポイントではなく、連続複利を想定するので指数関数で書く、つまり
exp(r1)×exp(r2)=exp(r1+r2)が成り立つので足し算で書ける、という部分が一番のポイントです。
言い換えると、連続複利から出発しなくても、
1+R1=exp(log(1+R1))の公式を使って
(1+R1)×(1+R2)=exp(log(1+R1)+log(1+R2))
でlog(1+R1)やlog(1+R2)の部分に乱数を入れても同じことになります。

そして乱数として正規乱数を用いれば、
収益率の対数が正規分布に従う
ことを想定するわけですから
収益率は対数正規分布に従う
ことを想定するわけです。

Sean. (2009/04/12 11:53:56)

A方式とB方式とで結果が異なるのは変です。これは、【年利 R】と【連続複利率 r】を同じ値としているためです。

次の変換をする必要があります。
1+R = e^r ・・・ r = ln(1+R)

一年目:r1 = ln(1.2) = 0.18232156
二年目:r2 = ln(0.9) = -0.1053605

したがって、2年後の連続複利率は

r = r1+r2 = 0.07696104

年利に戻せば

1+R = e^r = e^0.07696104 = 1.08

と同じ結果になります。

今後の議論においてもこの変換をお忘れ無く!

NU (2009/04/12 16:44:50)

12月にこちらのブログを見て、対数正規分布などについて、
いろいろ考えたこと書いてあります。
http://nukoriki.blog95.fc2.com/blog-entry-7.html
よかったら見てください。

シミュレータ (2009/04/13 0:31:11)

 上のコメントで,最初のお二方が言われていることは以下の意味において正しいと思います.
 数値シミュレーションにおいて,モデルの意味が同じでそれを正しく扱っていれば,計算方法が乗算型であろうと指数型であろうと対数型であろうと,数値演算誤差以上の違いはあり得ません.そして,ここで扱われている程度の単純な計算では,演算誤差が致命的にとは思えません.
 イーノさんは,「連続複利」の方が年利計算より「精度が高い」と誤解されているようですが,それは計算の目的によって違います.単に年ごとの収益を求めるのであれば,年利の決め方を正しく行なえば,年ごとの離散計算でも同程度の精度になるはずです.
 結局,以前の計算が他の方式と合わないのは,モデル本来の意味を正確に扱えていないからにすぎないように見受けられます.計算方法などに惑わされずに,モデルの意味をよく考察されることをお勧めします.

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/04/14 11:36:49)

みなさんコメントありがとうございます。

COLE.さん。おっしゃるとおり。その内容は別の形で以後の連載で展開していく予定です。

Seanさん。変換については認識しています。AとBの違いはそこだった、という点がこれでようやく(自分にとって)明らかになったのがここまでの展開です。

NUさん、拝見させていただきます。

シミュレータさん。両者の違いが精度の違いではなくモデルの違いだというのを、ここまで調べてきたことなので、認識しているつもりです。

ということで、ここまで大きくハズしてなさそうなので、引き続きこの勢いで続けていきます!


シミュレータ (2009/04/17 23:57:10)

イーノさん,シミュレーションにおける「モデル」の意味を誤解されているようですね.少なくとも,イーノさんが書かれていることは計算法の違いであって,モデルの違いではありません.

Sean. (2009/04/20 1:21:07)

リターンだけなら、連続複利の足し算でも、実数のかけ算でも同じ結果になりますので、計算法の違いだけです。しかし、今後の展開においては、リスクデータを求める必要が出てきます。単なる収益率の標準偏差ではなく、連続複利に変換した値の標準偏差が必要になるはずです。計算の手間だけなのですが、結構面倒です。簡便な方法があるのでしょうか?

そうすると、「アセットアロケーション分析」に入力するデータも変えなければならなくなるとか、色々と問題が発展しますよね。

「引き続きこの勢いで続けて」いただくことを期待します。気づいたことがあれば、またコメントさせていただきます。




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