2009年05月 4日

連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした

リスクのある金融商品を長期保有すると、果たして複利で増えることを期待していいのか、それとも複利ほどに増える可能性は半数以下なのか。これを知るためにどのようなシミュレーションを作ればいいのでしょうか? あらためて考えてみます。

いままでの僕のシミュレーションは、「1年後の収益率が正規分布する」という前提で、それを毎年繰り返していました。日本証券アナリスト協会編「証券投資論」第3版 74ページから引用。

投資対象としての金融資産の収益率がどのような確率分布に従うかは数多くの実証研究が存在する。目下のところ、標準的な投資理論では、収益率の分布は正規分布(normal distribution)に従うものとして理論が構築されている。

収益率が正規分布するというのはどういうことかというと、例えば一般的な外国株式の期待リターンとしてよく使われる値、期待リターンが年5%、リスクが20%で考えてみましょう(参考「連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ」)。

期待リターンが5%ですから、外国株式の投資信託を1万円買って1年保有していたら、5%増えることを期待していいわけです。

ところが、外国株式は定期預金ではありませんので5%増えることは保証されていません。株価が上がれば10%になるかもしれないし、金融危機になれば元本割れして-8%になる可能性もあるわけです。

Normdist_fig01

で、こうした値動きが、実は期待リターン5%でリスク20%という正規分布に従っている、というわけですね。つまり、5%増える確率がいちばん高くて、そこから外れる確率はどんどん小さくなっていく、ということです。こんなイメージ。

Normdist_fig02

で、このグラフを毎年毎年繰り返すとどうなるかというと、こんな感じになるわけです(これは期待リターン10%、リスク30%の値動きが正規分布すると仮定した金融商品を20年保有したシミュレーションを200回実行し、グラフにしたものです。参考「連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行」))。

Normdist500_01

さて、ここまでがこれまで僕がやってきたシミュレーションでした。これまでの連載でA方式と呼んでいたシミュレーション方式です。で、ここで別の方式であるB方式がある、というのが分かってそのB方式を理解するために、「連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい」から遠回りしてきました。

B方式というのは、A方式とは異なる考え方をベースにしていたことが分かりました。それは、A方式では「収益率は正規分布に従う」という考え方をベースにしていたのに、そうではなくて「収益率の連続複利年率が正規分布に従う」という考え方でした。

書籍「証券投資(上)」にはこう書いてあります。

個別の株式の収益率が正規分布するという仮定には理論的反対がある。それは、株価が負の値をとることがないことを考えると、正規分布が保有期間収益率を典型的に示す分布となり得ないというものである。
(略)
これに代替する仮定は、連続複利年率の収益率が正規分布するというものである。
(略)
短期の保有期間、つまりtが小さな値のとき、(数式略)正規分布は、対数正規分布の良い近似となる。

つまり、収益率が正規分布に従うというのは近似でしかなく、正しくは「連続複利年率の収益率が正規分布する」ということなのだそうです。


書籍「現代ポートフォリオ理論講義」では、新日鐵の1991年から2005年までの株価を検証して、次のように説明しています。

たとえば新日本製鐵(以下、新日鐵)の月次収益率が正規分布するかとう検証が必要である。
(略)
全体としては正規分布に近いともいえるが、左右対称ではなく左にすそ野が広くなっている。最頻値(モード)は平均値より左にある。正規分布ではない可能性もあるので改良を要する。
(略)
このような分布をする確率変数の場合、対数正規分布である可能性がある。

対数正規分布であるということは、間接的にそれが連続複利年率では正規分布している、ということにつながっています。特に、現代ポートフォリオ理論講義の方では、その前提として過去のデータが具体的に掲載され、その分析の結果こうなのだ、という形で導き出されています。

B方式を紹介してくれたベムさんの記事にも、こう書いてあります。

金融工学では証券価格自体が正規分布すると仮定しているのではなく、その変化率(連続複利ベースの収益率)が正規分布すると仮定しているためです。
(略)
変化率が正規分布するので、証券価格自体は対数正規分布になります。

「収益率が正規分布に従うのは近似で、より正確には連続複利年率の収益率が正規分布する方が確からしい」という考え方は、ここに挙げた以外にも専門書などをあたればいくつも発見できると思います(僕が書店で立ち読みした本で見かけることができました)。もちろん、それ以外の意見(参考:「投資信託のリターンは対数正規分布に従うらしい、けど厳密には違うらしい」)もありますけれど。

そこでここから僕は、「収益率が正規分布する」という、これまでA方式の基礎にしていた考え方を捨てて「連続複利年率の収益率が正規分布する」という方式でシミュレーションをしていくとにします。そのほうが、統計上より確からしいシミュレーションができると考えたからです。

いままで僕は、「連続複利年率の収益率が正規分布する」ことの意味がよく分かりませんでした。しかし、この連載で示してきたように、ようやく連続複利が分かってきて、それの使い方も分かってきました。それらを使えば、きっとうまくシミュレーションが組み立てられるはずです。

次回からは「連続複利年率の収益率が正規分布する」ことを前提に、あらたなシミュレーションを組み立てていきます。

この連載のバックナンバー
早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」

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