2009年05月16日

連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!

ある金融商品が期待リターン5%、リスク30%だとしたとき、その期待リターンを基にした連続複利年率rは以下の公式によって求めることができます。

連続複利年率r = log(1+期待リターン5%)= 4.879%

で、この式を変形するとこうなります。eはネイピア数とも呼ばれる特殊な数で、2.71828……と小数点以下が無限に続く無理数です。

100%+期待リターン5% = e4.879%

さて、金融商品の毎年の収益率の変化は「連続複利年率の収益率が正規分布する」とすれば、上の式の4.879%のところが正規分布するはずです。

で、正規分布するのであれば当然ながら「平均」と「標準偏差」が必要です。平均が上記で求めた4.879%だとすると、標準偏差はリスク30%の値をそのまま用いていいのでしょうか?

ひとまず30%だとしましょう。正規分布を「N(平均、標準偏差)」という式で表すとすると、こうなります。

eN(0.04879, 0.3)

これはどのくらい正しいのでしょうか? シミュレーションで検証してみましょう。まずはこれをExcelの式で表現してみます。こうなります。

eN(0.04879, 0.3) → exp(norminv(rand(),0.04879,0.3))

norminv(rand(),0.04879,0.3)で正規分布に従った乱数が発生されます。上記のExcelの式を、シミュレーションのために1万回実行して、その平均と標準偏差を求めてみました。平均の期待リターンが5%、リスクが30%とでてくれればいいのですが……ところが驚愕の結果が出てしまいます!


1万回実行した平均=1.099888
1万回実行した標準偏差=0.335307

平均が1.099888、1を引くと期待リターンの平均が9.98%になってしまってます。期待リターン5%にしたかったのに、連続複利年利を正規分布させた収益率の平均をとると、約10%にもなってしまう!のです。これは誤差というレベルではありません。

どういうことなのか調べるために、1万回実行してみた結果を度数分布グラフを見てみましょう。連続複利年率を正規分布させたので、グラフそのものは対数正規分布のグラフになっています。見ると分かるように、右側の裾野が長くなっています。つまり、高いリターンとなった少数の結果が全体の平均を引き上げているように見えます。

Exp_graph01

ということは、標準偏差を求める以前に、連続複利年率の求め方そのものになにか問題があるということのようです。あらためて、e正規分布(平均μ,標準偏差σ)が、期待リターン5%(数式的には1+5%)、リスク30%になるような平均μと標準偏差σを求めなければならないようです。

次回、このことについてもう少し考えてみます。それから、シミュレーションに使ったエクセルのシートexp_simulation.xlsを公開しておきます。


この連載のバックナンバー
早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」

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Sean. (2009/05/17 16:24:23)

C2列の7行目から10006行目まで [exp(norminv(rand(),0.04879,0.3))] によって計算された値は、 (1+R) のシミュレーション値を表します。この値は正規分布していませんので、平均や標準偏差を計算しても無意味です。(期待通りではないという意味で)

[norminv(rand(),0.04879,0.3)] が正規分布するのですから、この値の平均値(X)をとって、さらに [e^X] とすると、期待通りの値になります。

もし、[exp(norminv(rand(),0.04879,0.3))] のままで平均をとるのであれば、単純平均(相加平均)ではなくて、相乗平均(1万個掛け合わせた結果の1万分の一乗根)を求めます。前記と同じ結果になります。

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/05/17 17:47:44)

Sean.さん、こんにちは。コメントありがとうございます! おっしゃることはよく分かります。ただ、以下のように僕は考えているのですが、いかがでしょうか。

ご指摘のexp(norminv(rand(),0.04879,0.3))が正規分布していないというのは理解しています。(正規分布でeをべき乗してるんですから、対数正規分布になるはずですよね)

ではこれは何をシミュレーションする目的だったかというと、実際の金融商品値動きのシミュレーションになるはずと考えています。このシミューレションの前提として金融商品の価格は「連続複利が正規分布する」を前提にしているためです。そしてそれを上記は数式化できたのではと思っています。(金融商品の値動きも実は対数正規分布している、という記述はあちこちの書籍で発券できますし、本記事ではその説を前提としています)

そして金融商品、例えば本記事の例で使った「外国株式(MSCIコクサイとか)は、株価の動きを分析した過去の統計により、1年ごとの平均が5%、標準偏差が30%であることは分かっています。

だとすると、上記のシミューレションの結果が平均で5%(105%)&30%になってほしかったのですが、なっていなかったと。だとすると、上記の式の考え方は合っているつもりなので、exp(norminv(rand(),0.04879,0.3))に与えたパラメータ(0.04879、0.3)が間違っているのだろう、では上記の式を用いたシミュレーションの結果、平均5%、標準偏差30%となる正しいパラメータの求め方は何なのだろう? というのが、ここで出てきた疑問なんです。解き方も分かっているつもりなので、続きは次回以降、なわけですが。

Sean. (2009/05/17 18:37:17)

それを早く言ってよ~~(医療保険のCM)

展開が細かく分断されているので、個々に反応すべきでは無いのですね。

> 与えたパラメータ(0.04879、0.3)が間違っているのだろう

近似する分布が、正規分布と対数正規分布との違いがありますから、当然ですね。

> 平均5%、標準偏差30%となる正しいパラメータの求め方は何なのだろう?
> 解き方も分かっているつもりなので、続きは次回以降

各期間のlog(1+R)をとって、その平均と標準偏差を計算するのではなく、(1+R)が正規分布すると仮定して導いた平均と標準偏差から、相応する対数正規分布の平均と標準偏差を求めるという意味でしょうか。いいですね。

正規分布を前提とした平均や標準偏差は公開されているものが多いですし、直感的に分かりやすいので、簡単に変換できるとすれば、助かります。期待してます。

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/05/17 18:55:59)

Sean.さん、記事ごとにこまごましててすいません。これは本当にそうで、できるだけ記事ごとに「これまでの経緯」に触れて本文に入ろうとしているのですが、なかなかうまくいけてませんね。

おっしゃるとおり、「
(1+R)が正規分布すると仮定して導いた平均と標準偏差から、相応する対数正規分布の平均と標準偏差を求めるという意味でしょうか。いいですね。」
言葉にするとそうなります。ここはずいぶん苦労して数式をこねくり回した記憶がありまして、なんとか形になりました。

予定では、次回は上記のコメントに書いたような説明を一回して、式の説明は次々回にする予定なのですが、コメントを読んだ方限定で先に答えを書いてしまうと、答えはここにあります。以前に僕はこの問題を解いていたんです。
http://www.fund-no-umi.com/blog/2008/12/post-b0bc.html

Sean. (2009/05/17 21:44:18)

なるほど、正規分布と対数正規分布との平均および分散の相互変換は、ちゃんと公式があるのですね。何故そうなるかは難しそうです。(積率で導くんだろうと思いますが)

数学的には理解できました。ありがとうございました。

ところで、数十個の実データを、正規分布に当てはめた場合と、対数正規分布に当てはめた場合とでは、誤差が出るのではないかと思います。この誤差は無視しうるものかどうか気になります。また、アセットアロケーションによって合成された平均や分散でも、この公式によって変換して大丈夫なのか。(この場合は、相関係数の誤差も問題になりそうです)


現在のテーマからはずれますね。もし別の機会に検証される事があればと思います。

重ねて、お礼申し上げます。



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