2009年06月 6日
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
リスクのある金融商品は収益率が正規分布すると一般には思われていますが、正確には連続複利年率の収益率が正規分布する、ということになります。それに従ったシミュレーションを作ってみました。
例えば、期待リターンが5%、リスクが30%の金融商品を考えてみます。前回のエントリ「リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直」に沿って、この金融商品の価格変化についてシミュレーションを作ってみましょう。
元本に対して1年後の価格がどうなるのか? というと、1年後の収益率(例えば5%)をRとするとき、以下の式で表すことができました。
1年後の価格 = 元本 × (1+R)
で、収益率Rの連続複利年率をrとするとき、以下が成り立ちます。
(1+R) = er
つまり、1年後の価格は以下の式でも表せます。
1年後の価格= 元本 × er
そして、前提として「連続複利年率の収益率が正規分布する」としているのですから、rが正規分布するわけです。すると、次のような式になります。
1年後の価格(の分布) = 元本 × e正規分布(平均μ,標準偏差σ)
さて、この金融商品の期待リターンは5%、リスクは30%ですからe正規分布(平均μ,標準偏差σ)を正規分布としてみたときの平均と標準偏差が、それぞれ5%と30%になるようなμとσを求める必要があります。
それには正規分布の平均と標準偏差を、対数正規分布に当てはめたときの平均と標準偏差に変換する式があるので、それで計算します。具体的には、次のエクセルの式にそれぞれの値を入れて計算することになります(ここではμは1+5%=105%、σは30%です)。
対数正規分布の式用の平均 = LN(μ)-LN((σ/μ)^2+1)/2
対数隻分布に式用の標準偏差 = SQRT(LN((σ/μ)^2+1))
この値をさきほどの以下の式に入れるわけです(ここでのμとσは、上記の式で求めた平均と標準偏差です)。
元本×e正規分布(平均μ,標準偏差σ)
ちなみに上記の式をExcelの式で表すとこうなります。
exp(norminv(rand(),平均μ,標準偏差σ))
exp()はネイピア数eのべき乗を表し、norminvは正規分布を生成してくれる関数です。そして、上記には乱数を生成するrand()関数が含まれています。
さて、こうやって求めた式や値を元に、エクセルで実際に1万回繰り返し計算してみました。その1万回それぞれの値を平均と標準偏差を、average関数、stdev関数で計算すると、次のようになりました。
平均:1.051767
標準偏差:0.302483
狙ったとおり、平均が105%、標準偏差30%の値がほぼでました。1万個の値の分布をグラフにしてみると次のようでした。
だいたい105%あたりをピークにして、対数正規分布っぽいグラフになっています。式は正しそうだということが確かめられました。
さて、ここまで淡々と説明してきましたが、実はこれでついにできたんですよ!ついに!。
なにがかといえば、ついに求めるシミュレーションの式が完成したんです!!!
・ある金融商品のリスクとリターンが分かっている。
・リスクのある金融商品は連続複利年率の収益率が正規分布する、とする。
この2つを前提としたとき、1年後の価格をシミュレーションする式をどう書けばいいのか、というのが分かったわけです。いままで、これを具体的にシミュレーションするにはどうすれいいのか、どんな式を立てればいいのか分かりませんでした。正規分布? 対数正規分布? 連続複利年率? という状態で調べ続けてきて、そしてようやくたどり着いたのが、このエントリで紹介してきた式で。で、計算してシミュレーションした結果、いまのところ合ってそうです。
まずは自分で納得できるシミュレーションができました(たぶん)。ばんざーい!
そして、1年後が正しくシミュレーションできるのですから、そのさらに1年後も、さらにその1年後もシミュレーションできるはず。つまり、この連載で知りたかった「20年後のリスクとリターンがどうなっているのか」もシミュレーションできはずです。なぜなら、
1年後の価格=元本 × e正規分布(平均μ,標準偏差σ)
なのだから、
2年後の価格=元本 × e正規分布(平均μ,標準偏差σ) × e正規分布(平均μ,標準偏差σ)
ですよね。ならば当然のごとく、
3年後の価格=元本 × e正規分布(平均μ,標準偏差σ) × e正規分布(平均μ,標準偏差σ) × e正規分布(平均μ,標準偏差σ)
なわけですよ。こうしていけば20年後だって100年後だってシミュレーションできます。というわけで20年後だとちょっと計算に時間がかかるので、10年後のシミュレーションをしてみました。
期待リターン5%、リスク30%の金融商品を10年間保有する、というケースを1万回シミュレーションしました。
そのときの任意の255ケースの10年間の値動きをグラフにしました。ものすごく儲かっているケースがちらほらある一方で、多くは200%以下の結果に集中している感じ。
つづいて1万ケースの結果を度数分布の折れ線グラフで示してみました。赤い線は1年目、水色の線が10年目です。
1年目は1.05、つまり5%あたりにピークがありますが、年を追うごとに山が低くなって結果のばらつきが大きくなり、ピークが左側へ寄って多くのケースで儲かっていない結果に終わっていくことが分かります。一方で、少数の人だけが大もうけの結果になり、多数の人は平均以下のようだ、ということをグラフが示しています。
これって、以前から僕のブログの読者なら見覚えがありませんか? 詳しくはまた次回に。ここで計算に使ったExcelのワークシートを公開しておきます(Excel 2007を、旧ファイルフォーマット形式に変換したものです)。
この連載のバックナンバー
・ 早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
・ 連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
・ 連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
・ 連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
・ 連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
・ 連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
・ 連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
・ 連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
・ 連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
・ 連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
・ 連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
・ 連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
・ 連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
・ 連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
・ 連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
・ 連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
・ 連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
・ 連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
・ 連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
・ 連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
・ 連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
・ 連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
・ 連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
・ 連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
・ 連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
・ 連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
・ 連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
・ 連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」
[関連カテゴリ]
・ H.リスク資産の複利確率
[広告]
≫次 : 連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
≪前 : 連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
分かっておられると思いますが
r=0.0095543565 ですから、1年目の中央値は e^0.0095543565=1.0096、10年目の中央値はe^(0.0095543565x10)=1.1003 と、右方向にシフトするはずです。
エクセルのグラフ上でピークが左方向に寄っていく様に見えるのは、分割が一定差分の度数分布に、段々と分散が大きくなる対数正規分布の値を当てはめているからです。
度数分布の分割を工夫しないと誤解してしまいますね。もっと細かくするとか、等比分割するとか・・・・
Sean.さん、いつも鋭い指摘ありがとうございます。まさにそこ大事なところを突かれました。まだ詳しく計算で確認していないのですが、以下のように考えています。
- ご指摘のように中央値は(ゆっくり)右方向にシフトするはず
- しかし対数正規分布ではモード(最頻値=グラフのピーク)<中央値<平均値なので、モードは中央値のさらに左にある
- なので、あのピークの見え方は(たしかに細かくすればもう少し正確にはなるものの)、おおざっぱには合ってるのではないか?
これを確認するために、10年後の対数正規分布の式を導いて(次の記事で書くつもりですが)、そこから10年後のモードも導けると思ってます。それによってピークが10年後にどこにくるか、計算で確認しようと思っています。
万が一計算とシミューレションが違ってたりしたら、またご破算で考え直しなので、そうならないように祈ってますが…。
ついでにいうと、中央値を計算していただいたことではっきりしていますが、やはりリスク資産の運用が複利(もしくはそれ以上)で増える確率は計算上は5割未満なんですよね明らかに…(これも記事でフォローします)。
5%リターン30%リスクと言われているものが、正確にはリターン0.96%、リスク1.32倍であるということがとても重要だと思いました。(対数正規分布の方が現実に即しているという前提ですが)
100万円投資して10年間長期保有しても、平均的には110万円。下手すると(-1σ)45万円、うまくいくと(+1σ)267万円。
これをどう考えるか。1.5%の10年国債なら、115万円(100万円元本+1.5万円x10)・・・安心確実で有利。
株や株式投信に投資するなら、せめて10年国債以上のリターンがほしい。やはり、タイミングか?
「アセットアロケーションがリターンの決定要素だ」という論説を疑わしく感じる。GPIFが日本国債中心に運用しているのは、実は一番利口なのか。
今回はとても勉強になりました。でも、巷間言われていることに対する疑念が益々深まりました。投資の世界は奥が深いですね。
投資家全体の平均ではなく、自分に起こる確率はどうなのか、を考えたとき、Sean.さんが計算してくれた中央値(つまり確率50%点)というのは重い存在ですね。
これは要するにリターンがリスクによって食われてしまうのだと思います。だとすると、投資のポイントはいかにリスクを減らすか、なのかもしれませんね。
この連載もついに最終段階に来ましたね。お疲れ様です。
パワーに感心します。ありがとうございました。
あつかましいのですが、2点お願いがあります。
1.リターンを年率に換算したものもシミュレーションしていただけませんか
それぞれの系列を、---例えば10年後であれば10分の1乗して---年率換算したもののグラフを書いてみると、様相が変わると思います。連続複利年率 r を中心として年ごとに急峻になるはずです。つまり『長期保有は、(相対的な)リスクを減少させる』ことの証明になるのではないかと思います。(リスクの絶対値は増えるが比率は減少するはず。)
2.実データの推移と理論データとをビジュアルに示していただけませんか。
10年後の対数正規分布の式を導かれるとのことですので、いっそのこと各年の式を導いて、グラフ上に+2σ、+1σ、±0σ、-1σ、-2σの理論値と実データとをプロットしていきます。ほとんどの実データが、±0σを中心に±2σの間に均等に分布するはずですね。そうすることによって、正規分布から対数正規分布に変換した方法が正しいことが目で確認できると思います。
正規分布の5%リターン30%リスクは、対数正規分布ではリターン0.96%、リスク1.32倍になるということは、数理的には正しそうなので頭では理解できるのですが、あまりにも差が大きくて「本当に当てはまるの?」との疑念を払拭できれば良いのではないかと思います。
支障のない範囲で対応願えれば幸いです。
丁寧な検討、ご苦労様です。
触発されて色々と勉強しております。
でも最近はハラハラしながら読んでいます。
連続複利で表した収益率が正規分布するという一般的な仮定なのに、期待収益率5%を0.96%に変換してしまう理由が分かりません。
期待収益率5%の分布の平均は5%なわけですから、変換の必要はないと思いますが。
そもそも、プライスの算術平均には、どのような数理的意味合いがあるのでしょうか?
対数をとったものならわかるのですが。
Sean.さん、こんにちは。ご要望ありがとうございます。できるだけお答えするつもりです。ただ、ご要望を拝見しただけだと、具体的にどう実現すればいいのか、まだきっちり理解できないところもあり、実際にやるときになったら質問させてください。
ネリさん、はじめまして。コメントありがとうございます。期待収益率5%をそのまま連続複利ベースの式に突っ込んで計算すると、その結果を正規分布でみたときには期待収益率が5%以上になってしまうのです。この辺から続きをお読みいただくと分かっていただけるかもしれません。
http://www.fund-no-umi.com/blog/2009/05/18-138e.html
としきさん、こんにちは。プライスの平均、というのは金融商品のシミュレーションを繰り返したときの平均、という理解でいいですか? だとすると僕の理解は、たくさんの人が同一のリターン/リスクの金融商品を保有したときのみんなの平均。というイメージで考えています...ご質問の主旨がいまひとつつかみきれないです。
逆に対数をとったもの、というのは何の対数をとったもので、それがどういう意味を持つのか、ぜひ教えてください。どうも僕は素人の発想なので、対数をとったものにどういう意味があるのかイメージがわかなくて、ここでやるように必ず普通の数に戻して比べたくなるのです...
アセットアロケーションなどのベースとして使われる過去データの収益率は、連続複利で表したものだと思います。まあ、あまり変わりませんが。
上記、Sean.さんとの議論で、「(外国株の)期待リターン5%リスク30%というのが、実はリターン0.96%であり、国債より低い」、などとありますが、んなわけありません。それなら外国株に投資する人はいないでしょうよ。
(18)での議論も含め、グラフの横軸は価格なのに、その平均を期待収益率と比較されています。連続複利なのですから、価格の対数の平均を見るべきなのだと思います。価格の平均の対数と、価格の対数の平均は、一致するとは限りません。
log(N年後の価格/元本)=r(連続複利)
ですから、元本=1のとき、log(価格)が収益率rになります。
私が言いたかった事は(18)回のコメントに書いてありました。そしてお答も出ていたようですね。しかしながら、いまだに貴殿の方法論がしっくりきません・・・
eのべき乗であるN(m,s^2) のmやsに、なぜ対数正規分布のために変換されたmやsを使ってよいのでしょうか・・・
> 金融商品の期待リターンは5%、リスクは30%で
> すからe正規分布(平均μ,標準偏差σ)を正規分布
> としたときの平均と標準偏差が、それぞれ5%と
> 30%になるようなμとσを求める必要があります
これ、「e正規分布(平均μ,標準偏差σ)を正規分布
とした」→ この仮定をしちゃだめじゃないですか?
今回の検証では、「rが正規分布に従うので、exp(r)は対数正規分布に従う」ことを前提としてますよね?
そして、「価格の平均」ですが、モンテカルロシミュレーションの結果として、10000の数字が出てきて、それの「算術平均」を取っているわけですよね?幾何平均では無く?
Xiがmonte-carloの結果の価格だとして、
Xiの幾何平均 = exp( ∑(LN(Xi)) / n )
うーむむむ。混乱してきました。
ネリさん、コメントありがとうございます。
>アセットアロケーションなどのベースとして使われる過去データの収益率は、連続複利で表したものだと思います。
ここ、僕も気にしているすごく大事なポイントなんです。いままでの僕の連載はすべて、一般に公表されている予想収益率は、年利であって連続複利ではない、ということを前提にしてきました。もしもそうではなくて、そもそも一般に流布されている収益率が連続複利なのであればこの連載はご破算で、ネロさんの説明は分かります。
なので僕はこの連載を始める前に、その点を気にして調べました。特に手に入りやすくよく使われるデータが年金積立金管理運用独立行政法人が発表しているデータですし、書籍などではイボットソンのデータが引用されることが多いのですが、それらが連続複利ベースの収益率であるという記述を見つけられませんでした。
また、もしそれらが連続複利ベースなのだとしたら、それをベースに「1年後の期待収益率」といった予想を記す資料などもよく見かけますが、それらを(e^連続複利率)で計算した結果で表現したところを見たこともありませんでした(もちろん近似値だからそのまま使ってる可能性もありますが、注など式があってもいいと思うのです)。
それに多くの書籍では、アセットアロケーションのリターン・リスク計算のためにこれらの値を年率として四則演算するのが普通みたいですし...。
なので僕は、特に年金積立金管理運用独立行政法人のデータを念頭に置いて「これは年利ベースなのだろう」と考えました。あるいは「この連載は、年率をベースにした収益率を前提にしている」と受け取ってください。
というわけで、「そうじゃなくて世の中の収益率のデータは普通は連続複利ベースだろJK」って感じの資料がもしあれば、ぜひぜひ教えていただきたいです。
また、「(外国株の)期待リターン5%リスク30%というのが、実はリターン0.96%であり、国債より低い、なんてわけはない」というのはおっしゃるとおりで、これは対数正規分布の結果をひとすじなわで(あるいは直感的に)表現しにくいためです。
当然ながら対数正規分布でも期待リターンの平均は5%で、確率分布の中央値は0.96%で、というのはSean.さんも僕も分かっています。なので「期待リターンが0.96%である」というのは不正確で荒っぽい表現というのを承知の上で、でも確率上起こりやすいのは5%ではなく0.96%を中心として上下に分布している、という意味を縮めてこういう表現になってしまっていると思います(なので細かいことなのですが、僕はSean.さんに同意しつつも、僕自身は「期待値が0.96%だ」という表現は使っていません)。
としきさんこんばんは。例によって僕がうまく説明できるか自信はありませんが。僕はこう考えています。
ある金融商品の過去のデータを何年か分処理してみたら、正規分布としては平均(リターン)5%、標準偏差(リスク)30%でした。そういう金融商品がありました。
ところで、その金融商品というのはどうやら理論上は対数正規分布に従ったランダムウォークというかそういう値動きをするらしいことが分かりました(これは、この連載の前提なので疑わないでください)。
では対数正規分布にどのような平均と分散のパラメータを与えると、それが生成する一見ランダムなデータを統計処理したとき、正規分布としては平均5%、標準偏差30%となるのでしょう? この値が分かれば、金融商品のシミュレーションが可能ですよね。
なので、「なぜ変換した値を使っていいのか?」の答えにはならないかもしれませんが、金融商品のシミュレーションを作るためには、上記の問いに答える必要があったからそうした、というのが僕の答えです。
そしてシミュレーションによって生成された1万個のデータを、正規分布としてみたときに平均と標準偏差がちゃんと5%、30%になっているかどうかを確認するためには、(平均を求めるには)算術平均を使うべきですよね?
というので答えになっているでしょうか。
イーノさま、
丁寧なお返事ありがとうございます。誠実なお人柄が窺える文章で、私の言葉足らずのコメントがお恥ずかしいところです。
確かに、国債との比較では言葉を濁してらっしゃいますね。次回にどんでん返しがあるということでしょうか。^^;
収益率の件ですが、標準偏差を伴っているので、正規分布が想定されています。ということは連続複利の収益率の意味だと思います。私は素人ですが、「ファイナンスの分野では常識」なのだろうと思ってます。
正規分布していない数値なら、標準偏差を添付してもあまり意味がないですよね。それに、ポートフォリオ構築の平均・分散理論(でしたっけ?)では、リターンの正規分布を想定していますから、用いるリターンは連続複利ベースの数値でなければならないでしょう。
あ〜,すみません。
あまり考えずに投稿してしまいました。
「標準偏差を伴っているので、正規分布が想定されています」、とは、限りませんね。取り消させてください。
最後の「ポートフォリオ構築の平均・分散理論(でしたっけ?)では、リターンの正規分布を想定していますから、用いるリターンは連続複利ベースの数値でなければならないでしょう」は、たぶん、合ってると思いますが、なんだか自信なくなってきました。orz
私が、『リターン0.96%』を強調する理由を説明した方が良さそうですね。
対数正規分布にしたがう場合、n年後の価格は、
n年後の価格=元本 × e^正規分布(平均μ,標準偏差σ) × e^正規分布(平均μ,標準偏差σ) × ・・・ n回乗算
これは次のように表せます。
n年後の価格=元本 × e^{正規分布(平均μ,標準偏差σ) + 正規分布(平均μ,標準偏差σ) + ・・・ n個加算}
さて、定理【X が平均μ,標準偏差σの正規分布に従うならば,大きさ nの無作為標本に基づく標本平均は,平均μ,標準偏差 σ/√n の正規分布に従う】によって、上の式は次の通り書き換えることが出来ます。
n年後の価格=元本 × e^{正規分布(平均μ,標準偏差σ/√n) × n}
すなわち =元本 × {e^正規分布(平均μ,標準偏差σ/√n)} ^ n
n年間の平均複利収益率は
平均複利収益率A=[元本 × {e^正規分布(平均μ,標準偏差σ/√n)}^n / 元本]^(1/n)
すなわち = e ^ 正規分布(平均μ,標準偏差σ/√n)
となります。
標準偏差が√n分の1になると言うことは、保有期間が長ければ長いほど、単位期間あたりのリスクが少なくなることを意味します。もし、永久に持ち続ければ(n=∞)、リスクはゼロで、平均複利収益率は次の通りです。
e ^ 正規分布(平均μ,標準偏差σ/∞)= e ^ 正規分布(平均μ,標準偏差 0) = e ^ 平均μ
イーノさんは、《正規分布の平均と標準偏差を、対数正規分布に当てはめたときの平均と標準偏差に変換する式》を探し当てられました。
対数正規分布の式用の平均 = LN(μ)-LN((σ/μ)^2+1)/2
対数正規分布の式用の標準偏差 = SQRT(LN((σ/μ)^2+1))
これを用いて、μが1+5%=105%、σが30%のとき、
対数正規分布の式用の平均μ = 0.0095543565
対数正規分布の式用の標準偏差σ = 0.2801278555
となると計算されます。(イーノさんのエクセル表による)
したがって、永久に持ち続けたときの平均複利収益率は
e^0.0095543565 = 1.009600145
と計算されますので、『リターン0.96%』を強調しています。
先のお願い【1.リターンを年率に換算したものもシミュレーションしていただけませんか】は、この点を意識したものです。
----------
私の推論過程に間違いがなければ、数理的には上記の結果になるはずです。
国債のリターンよりも低いと言ったことが物議を醸していますが、小生も「そんな馬鹿な」というのが直感的な感想です。「世界経済の名目成長率と比べてもそんなことにはならないだろう」とも思います。
そこで、2番目のお願い【2.実データの推移と理論データとをビジュアルに示していただけませんか】になります。
『年金積立金管理運用独立行政法人が発表しているデータ』に生のデータがあるのか否かは存じませんが、長期的な価格推移が入手できたとして、そのデータを A0,A1,A2,・・・ とします。
前述のように、『n年後の価格=元本 × e^{正規分布(平均μ,標準偏差σ/√n) × n} 』。これは『元本 × e^正規分布(平均μx n, 標準偏差σx√n)』となるはずです。(検算してくださいね)
元データの推移と、+2σ、+1σ、±0σ、-1σ、-2σの理論値の推移をグラフ化します。具体的には
元データ:A0,A1,A2,・・・,An
+2σ系列:A0,A0*Exp(r+2*σ),A0*Exp(2*r+sqrt(2)*2*σ),・・・,A0*Exp(n*r+sqrt(n)*2*σ)
+1σ系列:A0,A0*Exp(r+σ),A0*Exp(2*r+sqrt(2)*σ),・・・,A0*Exp(n*r+sqrt(n)*σ)
+0σ系列:A0,A0*Exp(r),A0*Exp(2*r),・・・,A0*Exp(n*r)
-1σ系列:A0,A0*Exp(r-σ),A0*Exp(2*r-sqrt(2)*σ),・・・,A0*Exp(n*r-sqrt(n)*σ)
-2σ系列:A0,A0*Exp(r-2*σ),A0*Exp(2*r-sqrt(2)*2*σ),・・・,A0*Exp(n*r-sqrt(n)*2*σ)
元データが±2σの間にほとんど(96%)が入っており、0σを中心として均等にばらついておれば、今回の検討が正しそうだといえます。もし、大幅にはずれれば、前提を疑わなければなりません。ネリさんの言われるように『アセットアロケーションなどのベースとして使われる過去データの収益率は、連続複利で表したもの』かもしれませんし、平均と標準偏差との正規分布から対数分布への変換に問題があるのもかもしれません。また、ファットテール問題など、そもそも正規分布、対数正規分布にしたがうのかと言う問題もありますね。結果を見て考えればよいのではないでしょうか。
Sean.さん、詳細な説明ありがとうございます。あとで時間のあるときにあらためてちゃんと見させていただくとして一点だけ、手短に指摘をさせてください。
正規分布(平均μ,標準偏差σ) のn個加算は、
正規分布(平均μ*n,標準偏差σ*√n)と、
平均はn倍になりませんか?
例えばベムさんのシミューレションをみると、そういう結果になっているので、そうなんじゃないかと。
http://d.hatena.ne.jp/bem21st/20081229/p1
どうでしょうか。僕の書きかけの次回原稿の計算もしているのですが、やはりn倍になる前提で計算していて、それでツジツマが合ってるようにみえるのです。
> 正規分布(平均μ,標準偏差σ) のn個加算は、
> 正規分布(平均μ*n,標準偏差σ*√n)と、
> 平均はn倍になりませんか?
私もそのように認識しております。前回の小生のコメントを改めてチェックしましたが、正規分布のn個加算に関する記述は次の通りで、推論過程の都合上色々と表現を変えていますが、最終的には《正規分布(平均μ x n, 標準偏差σ x √n)》となっています。
>> n年後の価格=元本×e^{正規分布(平均μ,標準偏差σ/√n)×n}
>> すなわち =元本×{e^正規分布(平均μ,標準偏差σ/√n)}^n
>> 前述のように、『n年後の価格=元本×e^{正規分布(平均μ,標準偏差σ/√n)×n} 』。
>> これは『元本×e^正規分布(平均μ x n, 標準偏差σ x √n)』となるはずです。
イーノさま、
何度も済みません。これが最後です。
平均・分散の値を換算しようとされた発端は、たぶん、連載(18)で一万回の平均が5%でなく、9%になった、ということですよね。
exp_simulation02.xlsをいじって、確かめてみましたが、価格=年率収益率の平均は確かにそうですね。ですが、価格の対数=連続複利収益率の平均は、仮定通り、ちゃんと5%近くになってますよ。
Sean.さん、ご確認ありがとうございます。僕のほうで見落としてました。たしかにそうなってますね。
リターン0.96%については、式の証明が合ってるかどうかの判断は僕にできるレベルではないですが、流れは追うことができました。おっしゃるとおり直感に反してはいますが、検討する価値は大いにありそうです。もう少し考えた上で別途取り上げたいと思います。2つのご提案のうち実データの入手はどうすればいいのか分からないのですが、できるだけ答えていくつもりです。
ネロさん、コメントありがとうございます。ご確認いただいたとおり、正規分布→対数正規分布を変換して成り立つのはご覧いただいたとおりだと思います。そしてご指摘のようにほかの見方でも成り立つことはあると思うのですが、それですなわち「一般に知られる期待リターンとは連続複利である」としてしまうのは、材料不足だと思うんですよね。「そう考えることもできる」とはいえると思うのですが。年利として考えても成り立つことが否定されているわけではないので、僕は引き続き「年利である」という立場でいこうと思います。今後ともよろしくおねがいします。
[トラックバックURL]