2009年06月28日

連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している

前回は、「長期でみれば、リスクのある金融商品は複利で増えることが期待できる」という、よくいわれる説明が実は誤りだった、ということを見てきました。それは、対数正規分布の特徴から導き出せたのですが、それ以外にも大事なことが分かってきました。

なんどかこの連載で例に出してきた、期待リターン5%、リスク30%の金融商品があったとき、5年後、10年後のリターンはどうなっているか? を予測したグラフを見てみましょう。赤い線が1年後、水色の線が10年後です。

Exp_graph04

これは「連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる」で行ったシミュレーションの結果のグラフです。数式でもほとんど同じグラフを描けますが、このグラフで注目したいのは、ピークが左へ移動してるじゃないか!ということです。

もちろん、グラフは年を重ねるごとに左右に広がっていって、右にも広がっているということは順調にお金を増やせた人も多くなった、ということですが、一方でピークが左に移動しているということは、元本割れしてる人が年を重ねるごとにどんどん増えている!ということも示しています。

なんでこんなことになるのでしょう? いろいろなリスクやリターンで調べてみたところ、実はリスクの大きさが関係することが分かりました。

期待リターン5%のまま、リスクを30%、20%、10%と変化させて、それぞれ10年後にどうなるか、というグラフを3つならべてみてみましょう。コレまでの連載によって、年利の期待リターンとリスクから、収益率の連続複利が正規分布する前提での対数正規分布を求める式は分かっていますので、その数式を基にグラフを描くことにします。

まず、期待リターン5%、リスク30%のグラフを数式で求めて描いてみました。シミュレーションとほとんど同じであることがわかります。

Lognorm_graph_5_30

続いて期待リターンは5%のまま、リスクを20%にしてみます。すると、ピークがほとんど動かなくなりました。

Lognorm_graph_5_20

そして期待リターンは同じく5%のまま、リスクを10%にしたところ、ピークは右へ移動するようになりました。つまり多くのひとが順調に資産を増やすことになりそうだ、というようにみえます。

Lognorm_graph_5_10

(それにしても、数式からグラフが書けるのはいいですね。いままで数式がわからないばっかりにシミュレーションで何万回も乱数を発生させてグラフを描いていたので、1つのグラフを描くのに数十秒かかっていました。計算式が分かったいま、一瞬でグラフが描けます。とても楽ちんです)

グラフを見る限り、リスクが高いと、高いリターンを得るチャンスも減ってるように見えます。ここから分かることは、リスクというのはより多くのリターンを得る確率を高めるために重要な役割を果たしている、ということです。

いままで僕は、リターンというのは、単に毎年のばらつきが大きいか小さいかだけで、長期で運用していれば、ばらつきは打ち消されて、最終的には期待リターンの複利に落ち着いていく、と思っていました。

でもこれは両方とも間違いだったようです。複利より下になりそうだし、ばらつきは打ち消されません。


(1)前回分かったように、リスクのある金融商品に対する投資では、複利を越える確率はつねに50%以下です。そして長期になればなるほどこの確率はどんどん下がります。

(2)そして今回分かったように、リスクが高ければ高いほど、高いリターンを得る確率が下がります。リスクはばらつきを表すだけでなく、「損する危険度」をやはり表していたのだ、と言えるでしょう。

期待リターンが高ければ、リスクには目をつぶってもいいや、と思っていませんでしたか? 僕は少しそう思ってました。でも、期待リターンだけを見て結果を予想することはできない、ということが(理屈の上では)はっきりしたと僕は考えています。

ちょっと今回はグラフを並べただけで結論をだしてしまって、少し急いだ感じがあります。次回、これらのグラフについて、モード(最頻値)、中央値、平均値を求めて、正確に見ていくことにしましょう。今回グラフを描くのに使ったエクセルのシートを公開しておきます。いろいろ試してみてください。

この連載のバックナンバー
早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」

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nori (2009/07/05 10:15:55)

はじめまして。アセット・アロケーション研究が趣味のインデックス投資家です。
いつも参考にさせていただいています。
今回の連載で私のモヤモヤしていたことがスッキリしました。イーノさんのおかげです。ありがとうございました。
実は、私も期待リターンが高ければリスクは目をつぶってもいいやと考えていた一人でした。でも、今回の金融危機で疑問が沸いてきて。。。
本を読み漁って未来は予測できないからこそアセット・アロケーションが重要ということは理解できたつもりでした。そこでアレコレ比率を考えてきました。が、結局、「未来のことは分からない」からこそ期待リターンが高いであろう方が得では?という方へと寄っていってしまっていました。
私の実際に合うように言い換えると、次第次第にお金の運用で資産を増やすという考えに偏りつつあったということでした。
でも、今回のシミュレーションで示していただいた結果からちょっと反省ました。
「もっとも安全で確実な資産は稼ぎに繋がるスキルだ」という理解を前提にして第一は本業の収入で、第二に運用だと考えたほうが、私には良いのかもしれません。結局、これってあちこちでよく言われてることですね。
この結論にたどり着いて、モヤモヤがスッキリです。でも、きっとまた欲が出て、モヤモヤするのだとも思いますが(^^;

羊雲 (2009/07/10 11:35:05)

長い道のりを一歩ずつ歩まれて、遂にここまでこられたのですね。全編ありがたく拝読させていただきました。私としてはキッカケになった疑問に明確な結論を与えていただいたと感じています。
アセットアローケーションに基づく国際分散投資の弱点を理解した上で、自分の資産形成・資産運用に活かしてゆかねばならないと痛感します。
世界経済が正常な成長過程にあるときは、長期的な複利効果に期待して投資戦略を選択しても大きな破綻はないのでしょうが、今現在は明らかに「異常」な経済状況ですから、投資手法の選択、投資理論の利用にも工夫が要ると言う事なのでしょう。

本当に有意義なご検討を遣り通していただき、ありがとうございました。

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/07/11 21:48:31)

羊雲さん、ごぶさたです。おかげさまで、すっかり僕の趣味として突っ走ってきました。そろそろ連載も終わりが見えてきているところです。自分としても感慨深いなあと感じています。このタイミングでまたコメントいただくのも何かの縁ですね:-)

うさみみ (2009/08/06 22:50:16)

ここまでの検討をされたことに驚きと尊敬の念を隠すことが出来ません。

投資との付き合い方を変化させていく中でも、長期投資が複利的であるという感覚には最初から今までなれなかったのですが、この検討を見てスッキリした感覚を覚えています。

そういう意味では、この1つの結論に違和感は持っていませんし、ゆえにこれからの投資との付き合い方も変化はなさそうです。

これからも勉強させていただきます。



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