2009年07月19日

連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ

前回は、金融商品を長期保有するとき、リスクが大きいと損をする確率が高まる、ということについて、最頻値の値を中心にみてきました。今回は中央値の動きをみていくことにしましょう。

■対数正規分布の3つの点

この連載の前提として、金融工学の前提として一般的に考えられている「リスクのある金融商品の連続複利率の収益率が正規分布する」とします。すると、その金融製品に投資したときの確率分布は対数正規分布として求められました。

そこで、対数正規分布の3つの点について確認しておきましょう。

Lognorm_graph01

対数正規分布のグラフには3つの点があることは以前にも紹介しました。「モード(最頻値)」と、「メディアン(中央値もしくは中位数)」と「ミーンもしくはアベレージ(平均値もしくは期待値)」です。

そして対数正規分布の期待値と標準偏差がそれぞれμ、σで与えられたとき、対数正規分布は次の式で表せることも何度か紹介しました。

対数正規分布=e正規分布(μ,σ)

この対数正規分布の最頻値、中央値、平均値は、やはりμとσが与えられたときに以下の式で表すことができます。これは公式なので僕は証明とかできないのですが、まあそんなもんだと思ってください。


最頻値 = e(μ-σ^2)
中央値 = eμ
平均値 = eμ+(σ^2)/2

■中央値と期待値(平均値)の動きをみていく

これで数式によって中央値を計算できることが分かったので、期待リターン5%、リスク30%の10年分のグラフで、中央値と期待値はどのように変化するのかを見ていきましょう。

下記のグラフの黒い点が中央値、赤い点が期待値です。

Median01

中央値とは、その左右の確率がちょうど50%ずつに分かれている点です。このグラフでは10年後の中央値はほぼ1.100になっているので、期待リターン5%、リスク30%の金融商品に10年間投資したとき、110%以下になる確率がちょうど50%(=110%以上になる確率も50%)である、といえます。

この結果をどう思いますか? 期待リターン5%の金融商品の10年複利は162%です。だから10年後は162%に増えていてほしいですよね? ところが、計算してみると10年後に162%以下になる確率は67.1%、162%以上になる確率は32.9%。つまり複利を越える確率は約33%しかありません。

期待リターンは5%のまま、リスクを20%に減らして10年分のグラフをみてみましょう。すると、中央値と期待値がかなり接近した動きになることがわかります。

Median02

10年後の期待値は1.62(複利と同じ)なのに対し、10年後の中央値は1.36です。まあまあ、といったところでしょう。ちなみに、10年後に複利以下=平均値以下になる確率は61.7%でした。

■やはりリスクは低いほうがいい

長期投資したときの中央値の推移でみても、やはりリスクは低ければ低い方がいい、ということが分かりました。

しかし金融商品への投資でリスクが低い方がいいとはいえ、リスクをできるだけ低くしてゼロにしてしまったら、結局MMFや定期預金のように低いリターンになってしまいます。

高いリターンを求めてリスクを高くすると、結局儲かる確率が減ってしまうし、かといってリスクをどんどん下げてしまうと、期待リターンそのものが低いものになってしまう。ローリスクハイリターンの商品がないと分かっているとはいえ、難しいものです。

では果たして、合理的なリスクとリターンの関係というのはあるのでしょうか? 次回、この中央値の推移を手がかりに、もう少し考えてみることにします。

そして次回が実質上の最終回の予定です! 最終回の後、総集編を書いてついにこの連載も終了します。

今回使ったExcelのシートを、lognorm_graph2.xlsとして公開します。いろいろ値を入れて試してみてください。

この連載のバックナンバー
早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
連載:リスク資産の複利確率(2)~ 参考書に載っている計算式
連載:リスク資産の複利確率(3)~ リターンとリスクのグラフ化
連載:リスク資産の複利確率(4)~ 収益率が正規分布に従うということ
連載:リスク資産の複利確率(5)~ 正規分布なシミュレーションの設計
連載:リスク資産の複利確率(6)~ 正規分布なシミュレーションをExcelで実行
連載:リスク資産の複利確率(7)~ 食い違う計算結果とシミュレーション結果の「謎」
連載:リスク資産の複利確率(8)~ 謎を解くカギは「B方式」にあるらしい
連載:リスク資産の複利確率(9)~収益率の変化をシミュレーションするという
連載:リスク資産の複利確率(10)~どうして収益率を足しているのだろう?
連載:リスク資産の複利確率(11)~連続複利とは? 無限に連続する複利の金利を求める
連載:リスク資産の複利確率(12)~連続複利を計算してみた
連載:リスク資産の複利確率(13)~連続複利の世界では掛け算が足し算になる!
連載:リスク資産の複利確率(14)~ 収益率を連続複利だと想定したシミュレーション
連載:リスク資産の複利確率(15)~ もういちどこの連載の目的を確認する
連載:リスク資産の複利確率(16)~新たな考え方でシミュレーションを作ることにした
連載:リスク資産の複利確率(17)~シミュレーションのために連続複利年率を求める
連載:リスク資産の複利確率(18)~連続複利年率のリスクの求め方のはずが、どんでん返しに!
連載:リスク資産の複利確率(19)~シミュレーションのための連続複利年率とリスクの求め方とは?
連載:リスク資産の複利確率(20)~シミュレーションの作り直し3度目の正直
連載:リスク資産の複利確率(21)~新しいシミュレーションを試してみる
連載:リスク資産の複利確率(22)~最も重要な公式、N年後の確率分布を求める式を記す
連載:リスク資産の複利確率(23)~複利で増える可能性は明らかに半数未満である
連載:リスク資産の複利確率(24)~リスクは結果のバラつきだけでなく、やはり危険度を表している
連載:リスク資産の複利確率(25)~期待リターンに対して、これ以上とってはいけないというリスクの上限がある
連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ
連載:リスク資産の複利確率(27)~これが合理的なリスクの取り方ではないのか!
連載:リスク資産の複利確率(28)~最終回「総集編」

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愛犬クロリス (2009/07/20 8:01:43)

文系の私には難しいですが・・・。
(1)から一通りは読んでいます。(理解は?ですが)

ファンドの海管理人(イーノ) (2009/07/20 11:34:08)

ご愛読ありがとうございます!



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