2010年04月25日
「過去のリターン平均は5%です」←新たな発見へ
過去のリターンの平均には、算術平均と幾何平均の2種類があり、この2つは異なる値を持つのであり、異なる目的で用いられる、ということを紹介してきました。
これまでの説明を振り返ってみましょう。例えば、5年間で次のように価格が変動した金融商品があったとします。左が変化率、右が基準価格を100としたときの価格です。
0年目 ±0% 100
1年目 +2% 102
2年目 +6% 108.12
3年目 -3% 104.8764
4年目 +1% 105.925164
5年目 -1% 104.86591236
このとき、過去5年のリターンの算術平均は1%、幾何平均は約0.95%です。それぞれ計算方法は次の通りです。
算術平均:
0+2+6-3+1-1=5、これを5年で割って1%
幾何平均:
(5√(104.86592136)/100) -1 = 0.95477654%。つまりおおむね0.95%
このとき、「過去の平均リターンがN%だったから、来年もN%、その次の年もN%、その次の年も…」と複利で増えることを期待したいのならば、幾何平均として計算された数字をN%のNとして当てはめるべきでしょう。という説明をしました。
なぜなら、過去のリターンを複利ベースで計算したのが幾何平均だからです。
そして「証券投資のための数量分析入門 (単行本)」という本には、次のような説明がされているということも紹介しました。
「もし投資の期待価値を推計したければ、算術平均を用いるべき」
「投資が目標価値を上回るか下回るか、可能性を推計したいなら、幾何平均を用いるべきである」
これはどういうことなのでしょう? その説明の前に、ちょっと話題を変えます。
以前僕が書いたエントリ「リスクが高まるとリターンを蝕んでいく」で、期待リターン5%、リスク10%の投資信託を20年保有したときのグラフを掲載したことがありました。こんなグラフでした。
グラフには3つの線が描かれています。
青い線が、期待リターン(つまり5%の20年複利)
赤い線が中央値(つまりこれ以上の人と、これ以下の人が半々)
緑の線が最頻値(つまりもっともたくさんの人がこの結果となる)
背景の灰色の横棒グラフは、それぞれの結果になる確率を示しています。最頻値のところにもっとも山の高い部分がきているのがお分かりでしょう。この、期待リターンとリスクから確率分布を求めることについては、過去の連載「H.リスク資産の複利確率」でさんざん計算してきました。
ここで話を戻します。実は前述の書籍「証券投資のための数量分析入門 (単行本)」によると、このグラフと、前述の「算術平均」「幾何平均」の話が重なるのです。
本では、こう書いてあると先ほど紹介しました。
「もし投資の期待価値を推計したければ、算術平均を用いるべき」
「投資が目標価値を上回るか下回るか、可能性を推計したいなら、幾何平均を用いるべきである」
これは、本をよーくよーく読んでみると、次のことを説明しています。
算術平均の複利=期待リターンに等しい
幾何平均の複利=中央値に等しい
なんだそうですよ!
これはどうやら、僕がさんざん計算してようやくたどり着いた「期待リターンとリスクから求められる確率分布」と、ここまでテーマにしてきた「過去の価格推移から計算されるリターンの算術平均と幾何平均」に結びつくようなのです。
なぜか? 僕は過去の連載「H.リスク資産の複利確率」でさんざん計算してきた結果、次のような結論を導き出しました。
「期待リターン通りに複利で増えると考えるのは間違ってる! 複利でなんか増えないよ!」とね。上のグラフをみていただければ分かるとおり、期待リターンで増える確率は半数以下なんですよ。そして、多くの人が最頻値、つまり期待リターンの複利以下の結果に終わるというのが僕の導き出した結論なのです。
そして、その「期待リターン=過去のリターンの算術平均」であり、「中央値=過去のリターンの幾何平均」だと説明されているのです。
これ、僕にとっては大発見です。
とはいえまだこれらを数式としてちゃんと僕が結びつけられたわけではありません。数学的な証明は、時間があるときにじっくり取り組もうと思っていますが、この2つが結びつくということは、僕にとって大きな発見でした。
まとめとして、もういちどこのことを書いておきます。「過去の算術平均から求められた期待リターンが複利で増えると思ってはいけない」と。そして、「期待リターンとされる数字の多くは算術平均で求められている」のだから、それをそのままN年後まで複利で増える」と思ってはいけないと。
この話題、僕にとってまだまだ追究し続けるテーマになっています。
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投資の期待リターンは本当に複利で計算して... [30歳代からの資産運用~よちよち投資家のブ...から]
ななし (2010/04/26 19:33:07)
いつも楽しく拝見させて頂いています。
一番楽しみ、そして一番大事で気になる点なので凄く勉強になります。
ブックオフで105円で売っていたバイアンドホールド時代の終焉という本を買って読んでいたら、
61ページに1900~2003年のダウ工業株平均の平均上昇率は7.4%だが、年複利では5.0%だと書いてあり、しかも年複利5%の上昇率ラインに達しているのは1920年代後半以降は、株式の奇跡的上昇があった1998年頃まで年複利5%で回っていないという図が出てました。
なので、イーノさんが書いている通り、超長期でリターンを求めるなら、とにかくリスクを減らす、というのが必須なのかな、と思いました。特にマイナスを喰らうと、取り戻すのには下落以上の上昇が必要になるので。。。
気になっているシリーズで、かつ今読んでる本と被ったので、つい嬉しくて書き込みしてしまいました。
これからも頑張って面白シリーズを続けて下さい。
a (2010/04/28 12:11:50)
本文中のグラフは、
期待リターン7%、リスク10% のグラフではなく、
期待リターン5%、リスク10% のグラフではないですか?
預金王 (2010/04/28 23:34:22)
すでに気付いてる人もいるみたいですね^^;
http://m.webry.info/at/hitsujigumo/200810/article_20.htm#bottom
>平均リターンがいくら高くても標準偏差が高い資産配分では全く報われない
KKRでは、すでに昔から論議されていて山○元さんも、本でチラホラほのめかしてましたね・・
内○忍さんも教えてあげればいいのに!
イーノ・ジュンイチ(ファンドの海) (2010/04/28 23:57:25)
ななしサン、コメントありがとうございます。ちょうど同じことを書いている本があったのですね。僕もさがしてみよう。
aさん、その通りでした。間違えてましたので直しました。
ななし (2010/04/29 10:34:33)
やっぱり、ほったらかしで年複利5~7%は幻想と言うか、私が踊らされていたのかも知れません。。
個人的に読んで収穫だったのは、ボラティリティの小鬼という言葉でした。
”マイナスのリターン”と”リターンのばらつき”は平均リターンと複利リターンを大きく変えてしまう。投資家はその悪影響を十分に理解し、出来るだけボラティリティを抑えて投資リターンの一貫性を高めねばならない。これが出来れば複利リターンは大きくなり、逆に株式投資のストレスは小さくなるだろう。
とはいえ、本にボラティリティを抑える方法が書いているわけではありませんでした。。
今持っている株式クラスは老後まで永久放置として、今後の積み立て分をどうするかなぁ、と悩んでたりします。
どこかで超長期の”ボラティリティの小鬼”対策としてのドルコストで試算した例がないか調べてみます。
今後も、ブログの更新等楽しみにしてますね。
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