2010年07月25日

長期のリターンとリスクをどう計算するか?(2) ~ 最頻値、中央値、平均値の計算

ある金融商品の年率の期待リターンとリスクが分かれば、その金融商品を10年、20年と保有したときの期待リターンとリスクが計算できることを前回紹介しました。今回は、期待リターンだけではなく、中央値、最頻値も計算できることを紹介します。

10年、20年と長期における期待リターンとリスクの計算式を求める連載「リスク資産の複利確率」を続けていく過程で、1つの事実に気がつきました。それは、金融工学の一般的な前提である「ある金融商品の連続複利率の収益率が正規分布する」としたとき、リスクの分布が正規分布ではなく、対数正規分布になるということです。

ま、気付いてみればあたりまえのことなのですが。

これはどういうことかというと、ある投資信託の期待リターンが例えば5%だったとき、リスクはこんな風に上下に広がっていると考えるのが一般的です。期待リターンに対して価格が上ぶれするリスクも、下ぶれするリスクも同じように分布している、というのが正規分布の形なわけです。

Long_return01

ところが正確には、リスクは対数正規分布の形で広がっているのです。多くの本には「リスクは正規分布している」という説明がされていますが、正規分布は1~2年程度の短期では近似しますが、10年、20年といった長期では正規分布ではもう近似できません。

対数正規分布では、価格が上ぶれするリスクと下ぶれするリスクは非対称です。

Long_return02


そして対数正規分布のグラフには3つのポイントがあります。平均値、中央値、最頻値です(参考:連載:リスク資産の複利確率(26)~長期投資で儲かる確率が上昇するかどうかは、リスクの大きさがカギ)。

さて。この対数正規分布における平均値、中央値、最頻値も求めることができます。対数正規分布は、対数をとった正規分布、つまりe正規分布(μ,σ)と表せます。このときの正規分布の期待値と標準偏差がそれぞれμ、σのとき、その対数正規分布の平均値、中央値、最頻値は次の式で表せます。

最頻値 = e(μ-σ^2)
中央値 = eμ
平均値 = eμ+(σ^2)/2

前回は、ある金融商品の(年率の)期待リターンがμ、リスクがσだとしたとき、10年後、20年後の期待リターンμNやリスクσNが計算できましたが、上記の最頻値、中央値、平均値の式を利用することで、10年後、20年後の最頻値、中央値、平均値を求めることもできるようになります(参考:連載:リスク資産の複利確率(25))。

具体的には、μとσから連続複利収益率ベースのリターンとリスクを求めます。

μa=loge(μ)-(loge((σ/μ)2+1))/2
σa=√(loge((σ/μ)2+1))

それをN年後に変換。

μb=μa×N
σb=σa×√N

このμbとσbを、さきほどの最頻値、中央値、平均値の公式のμとσに代入して計算すればいいわけです。

前回と今回の内容をまとめると、過去の連載「リスク資産の複利確率」を通して僕は、ある金融商品の(年率の)期待リターンとリスクが分かれば、10年後、20年後などの長期について、以下のことが計算できることを求めることができました。

- 期待リターン。つまり、どれだけお金が増えそうか?
- リスク。つまり、どれだけ結果がぶれそうか?
- 最頻値。つまり、投資結果としてもっとも起こりそうな値
- 中央値。つまり、投資結果として起こりうる結果の真ん中の値
- 平均値。つまり、投資結果の期待値=期待リターンと同じ

ところが、この結果を別のアプローチによってもっと簡単に求める方法があることが分かってきました。

(つづく)

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I.金融工学

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Tansney Gohn (2010/07/30 8:46:46)

イーノさん、興味深い記事をありがとうございます。

過去の長期株価チャートを見たときに、
例:
Yahoo! Finace S&P500長期チャート
http://finance.yahoo.com/q/bc?s=%5EGSPC&t=my

確率的に見て「最頻値」のところを多少上下にぶれながらも たどって来ていたと考えているのですが、これで合ってますでしょうか?

イーノ・ジュンイチ(ファンドの海管理人) (2010/08/01 12:11:00)

Tansney Gohnさん、こんにちは。ちょっと計算してみないと分からないのですが、いずれ似たような計算をする積もりではおりますので、それまでお待ちを…



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