2010年08月 1日
長期のリターンとリスクをどう計算するか?(3) ~ 過去の実績の算術平均と幾何平均
ある金融商品の年率の期待リターンとリスクが分かっているとき、その金融商品を10年間、20年間と長期で保有したときの期待リターンとリスクの計算方法を求めたわけですが、これまで僕がたどってきたのとは違うアプローチがあることを知りました。今回はそのお話。
ある金融商品の期待リターンを、過去の実績から求めるとしたとき、その過去の実績からの求め方には、算術平均と幾何平均の2通りがある、という説明を、4月25日の記事「「過去のリターン平均は5%です」←新たな発見へ」でしました。
例えば、過去5年間で次のようなリターンの実績を持つ金融商品があったとします。
0年目 ±0% 100
1年目 +2% 102
2年目 +6% 108.12
3年目 -3% 104.8764
4年目 +1% 105.925164
5年目 -1% 104.86591236
このとき、過去5年のリターンの算術平均は1%、幾何平均は約0.95%です。
算術平均:
0+2+6-3+1-1=5、これを5年で割って1%
幾何平均:
(5√(104.86592136)/100) -1 = 0.95477654%。つまりおおむね0.95%
そして、聞いたところによると一般に「過去の実績からリターンの平均を求める」ときには、算術平均を使うことの方が多いそうです。
ところで、この算術平均と幾何平均には、僕にとって驚くべき秘密が隠されていたことが、書籍「証券投資のための数量分析入門 (単行本)」に記されていました。
それはこのような説明でした。
「もし投資の期待価値を推計したければ、算術平均を用いるべき」
「投資が目標価値を上回るか下回るか、可能性を推計したいなら、幾何平均を用いるべきである」
これは、本をさらによーくよーく読んでみると、次のことを意味していることが分かります。
過去のリターンの算術平均=期待リターンに等しい
過去のリターンの幾何平均=中央値に等しい
そして、例えばN年後の期待リターンと中央値を求めるのならば、
N年後の期待リターン=算術平均^N
N年後の中央値=幾何平均^N
なんだそうですよ!
僕が過去の連載「リスク資産の複利確率」の中で、ミューとかシグマとか対数正規分布とか難しい数式をこねくり回してようやくたどり着いた結論の中の2つ、期待リターンと中央値を求める方法が、足し算と割り算(算術平均)、かけ算と割り算(幾何平均)で求められてしまうなんて!
あの努力は何だったんだ!
と僕はココロの中で叫ぶわけです。そして次にココロは次のように叫びます。
よーし、それが本当なのか、また調べてやる! 絶対に調べてやるぞ! 嘘だったら承知しねーからな!
そういうわけで、ようやくここで新たな謎が登場します。まず、これが正しいのか調べます。
過去のリターンの算術平均=期待リターンに等しい
過去のリターンの幾何平均=中央値に等しい
そしてこうして求めた期待リターンと中央値が、過去の連載「リスク資産の複利確率」で求めた期待リターンと中央値と整合性があるのかどうか。
これが僕にとって解くべき新たな謎、というわけです。いまのところあんまり解決のメドはついていません。
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≪前 : 長期のリターンとリスクをどう計算するか?(2) ~ 最頻値、中央値、平均値の計算
前提がありまして
> 過去のリターンの算術平均=期待リターンに等しい
各期のリターンが独立ならばこの等号は成立します。
> 過去のリターンの幾何平均=中央値に等しい
リターンの対数が、正規分布のように、平均値と中央値が等しいならばこの等号は成立します。
その本にはこのような前提は書かれていませんでしたか?
前提なしに常に成り立つ等式ではありません。
COLEさん、ごぶさたです。
もちろん前提として「ある金融商品の連続複利率の収益率が正規分布する」ことになっています。
前者の期待リターンのほうは、よく考えれば当然のこと。後者も、対数をとる分布が正規分布なので直感的には理解できるのですが、いずれにせよきちんと自分で考えてみたいと思った次第です。なにか参考になりそうな情報があれば教えてください。
>> ある金融商品の期待リターンは、過去の実績から求めることが多いわけですが
この部分は、どちらかと言えば間違いではないでしょうか?
実際の運用現場では、ヒストリカルデータ方式ではなく、
ビルディング・ブロック方式による期待リターンを採用することが多いと思うのですが。
leafさん、ご指摘ありがとうございます。たしかにいろんな方法があるので、多いとはいえないかもしれないですね(というか、どれが多いのかは知らないので)。記述を変更しておきます。
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