2010年08月21日
長期のリターンとリスクをどう計算するか?(4) ~ 算術平均はなぜ期待リターンなのか?
ある金融商品の期待リターンを過去の実績から求めようとしたとき、求め方には算術平均と幾何平均の2通りがある、ということを説明してきました。そして、算術平均は期待リターンに、幾何平均は中央値に一致するというのです。本当でしょうか?
書籍「証券投資のための数量分析入門 (単行本)」によると、
「もし投資の期待価値を推計したければ、算術平均を用いるべき」
「投資が目標価値を上回るか下回るか、可能性を推計したいなら、幾何平均を用いるべきである」
と書いてあり、さらによく読むと、
過去のリターンの算術平均=期待リターンに等しい
過去のリターンの幾何平均=中央値に等しい
とあり、例えばN年後の期待リターンと中央値を求めるのならば、
N年後の期待リターン=算術平均^N
N年後の中央値=幾何平均^N
となるそうなのです。本当なのでしょうか? 考えてみることにしましょう。
まずは「期待リターンは算術平均に等しい」という説明が本当かどうか、から。
■期待リターンってなんだ?
期待リターン、あるいは期待収益率とは、「この1年で、N%の上昇が期待できるだろう」というときのNの値のこと、とここでは考えます。
これは「期待値」を求めるのと同じなんです。
期待値ってなんだ? といえば、例えば、1から6までの数字を書いた紙が1枚ずつ入った袋を想像してください。この袋から紙を1枚だけ取り出したとき、その紙に書かれた数字の期待値は何でしょうか?
これを計算するには、まず袋の中の紙に書かれた数字を全部合計します。1から6までを足すと「21」です。これを紙の枚数の6で割ります。すると答えは「3.5」です。
つまり、袋の中から1枚だけ紙を取り出したとき、その紙に書かれた数字の期待値は「3.5」だといえます。
同じように金融商品についても考えてみましょう。過去6年間のリターンがそれぞれ、2%上昇、3%上昇、1%上昇、-2%上昇、5%上昇、0%上昇、という結果となった金融商品があったとします。この金融商品の次の1年間の期待リターンはいくらでしょうか?
という答えは、期待値の計算と同じ方法で計算することになるんですね。つまり、過去のリターンがあって、そこから次の1年の期待リターンを求める、というのは、過去のリターンが書かれた紙が袋に入っていて、その中から1枚を取り出すときの期待値、というのと同じ意味なんですよね。
というわけで、過去6年間のリターンの合計を計算します。2+3+1+(-2)+5+0 = 9。9を6で割って1.5。
つまり、次の1年の期待リターンは1.5%です。
はい、これで合計して割る、つまり算術平均=期待リターンというのがこれで分かりました。
もちろん、基の数字が変わらなければ、その次の年の期待リターンも1.5%、その次の次の年の期待リターンも1.5%でしょう。だから、
N年後の期待リターン=期待リターンN
というのも分かりますね。
続いて、幾何平均は中央値と一致するという点について次回考えてみたいと思います。
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袋の例で
袋の中が全部分かるなら、1から6の確率がそれぞれ1/6だと分かるので、期待値は3.5です。
でも、袋の中が全部見られなくて、何枚入っているかも分からなくて、とりあえず6枚取り出してみたら1から6が1枚ずつだった場合、3.5は過去6枚の平均値であり、また期待値の推定値に過ぎません。
株価の場合、「袋の中が全部見られなくて、何枚入っているかも分からなくて、とりあえず6枚取り出してみた」ケースですので、1.5%は期待リターンそのものではなく、過去の平均リターンであり、期待リターンの推定値です。
COLEさん、詳しい解説ありがとうございます。そう考えるのですね。
質問なのですが、過去何年分を振り返って計算するかは、任意に計算者が決められると思うので、それによって「過去何年分」が袋に入っているか分かるし、「過去何年分」に対する期待リターンかもあらかじめ決められると思うのです。と、こう考えて、推定値ではなく、過去N年分を基にした将来の期待リターン、という風に答えを求めることはアリなのでしょうか。
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