2010年09月12日

長期のリターンとリスクをどう計算するか?(7) ~ 過去の実績を基にした確率分布の正しい式

ある金融商品の期待リターンを過去の実績から求めようとしたとき、過去の実績の算術平均は期待リターンに、幾何平均は中央値に(それぞれの推測値に)一致することが分かりました。それだけではなく、より簡単に確率分布を表わす式の求め方まで分かりました。今回はその説明。

さて、ずっと僕がこれまで前提としてきた、金融工学で一般的に前提とされている「ある金融商品の連続複利率の収益率が正規分布する」ということはどういうことなのか? 前回このように説明しました。説明を繰り返します。

まず収益率(月次だったり年利だったりのリターン)と、連続複利率を考えたとき、こういう関係になります。

収益率 連続複利率
R1	loge(R1)
R2	loge(R2)
R3	loge(R3)
R4	loge(R4)
R5	loge(R5)
R6	loge(R6)
R7	loge(R7)
:	 :
Rn	loge(Rn)

で、右側の連続複利率が、実は正規分布しているはずだ、というわけです。

分かりやすいように、収益率と連続複利率の関係を別の形で表してみましょう。連続複利率をCR1~CRnで表すと、収益率は次のように表せます。

収益率 連続複利率
eCR1	CR1
eCR2	CR2
eCR3	CR3
eCR4	CR4
eCR5	CR5
eCR6	CR6
eCR7	CR7
:	:
eCRn	CRn

この場合、CR1~CRnが正規分布する、というわけです。ということは、収益率を示すeCR1~eCRnは対数正規分布していることが分かります。

はい、ここまでは前回と同じです。

で、分かったのはこのこと。

収益率の確率分布 = e正規分布(CR1~CRnの平均と分散)

この式で収益率の確率分布を示すことができるのだ! ということです。

で、CR1~CRnってのは、logeR1~logeRnってことですよね。

だから、過去の収益率の履歴R1~Rnが分かれば、logeR1~logeRnの平均と分散を計算することで対数正規分布による確率分布を示すことができる、ということなんですね。

普通はR1~Rnのほうの平均と分散を求めるじゃないですか、でもそれは近似であって、より金融工学の一般的な前提に沿うとすれば、対数をとったほう、つまり連続複利率であるCR1~CRnのほうの平均と分散を求めるべきなのですね。

繰り返しになりますが、連続複利率の平均μと分散σ2を計算することで、

e正規分布(μ,σ^2)

この式を簡単に求められるわけですよ。

これがなんで嬉しいかというと、いままではこの確率分布を示す式のμとσを求めるためにややこしい遠回りをしてきたのです。

ややこしい遠回りとは過去の連載過去の連載「リスク資産の複利確率」のこと。この連載では、まず、ある金融商品の期待リターン(平均:μ)とリスク(標準偏差:σ)が分かっていたとする、というところから始まりました。

しかしこのμとσは、確率分布が正規分布であることを前提に求められていた値なので、これをややこしい式で、正規分布と同じ平均と分散を示す対数正規分布に変換する式にかけて、それにより対数正規分布用のμ1とσ1を求めていました。そしてそのμ1とσ1を用いて、対数正規分布による将来の確率分布を計算していたのです。

でも、過去の収益率の履歴さえわかれば、ややこしい正規分布から対数正規分布への変換などをしなくても、履歴から直接求められるのです。ずいぶんすっきりしますよね。

次回はこの連載の記事「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(3)」で提示した最後の謎に挑みます。

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I.金融工学

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g69 (2010/10/09 17:05:31)

いろいろと参考にさせていただいています。

複利の運用について、例えば、次のlinkでは、独立な確率変数の積を使用していて、正規分布の積は正規分布にならないようですが、対数正規分布の積は対数正規分布になるようです。
http://yana.jp/20100911/zzz/economy.ja.euc.html

つまり、過去の収益率の履歴があって、倍率(収益率+1)が対数正規分布すれば、複利で運用しても、対数正規分布になるようです。

また、過去の収益率の平均と分散から、複利リターンを近似(平均-分散/2)できるようです。

なお、ポートフォリオということで、例えば、対数正規分布する債券と対数正規分布する株式に分散した運用について、独立な確率変数の和を使用すると、対数正規分布の和は対数正規分布になるのか気になっています。

イーノ・ジュンイチ(ファンドの海管理人) (2010/10/10 23:48:26)

g69さん、情報ありがとうございます。

これまで僕が理解してきたことと一致していますね。複利運用はつねに対数正規分布になるので、つねにexp(N(μ,σ))の対数正規分布の式で表せます(このエントリで書きましたが)。

複利リターンについては、近似値ではなくもっと正確な確率分布を以下の記事で計算してグラフ化しています。
http://www.fund-no-umi.com/blog/2010/08/post-eaa9.html
これらについて、ほかの方も同じ結論だというのはうれしいですね。

最後に書かれたご質問ですが、株式だろうと債券だろうと、基本的には同じ対数正規分布する性質ならば、それらを組合わせたポートフォリオの結果も対数正規分布になると理解しています。



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