2010年10月11日

長期のリターンとリスクをどう計算するか?(8)~ 過去の連載と今回の連載の結果は整合するか?

ある金融商品の期待リターンを過去の実績から求めようとしたとき、過去の実績算術平均は期待リターンに、幾何平均は中央値に一致することが分かりました。で、これは以前の連載で求めた式と一致するのでしょうか?

さて、過去の連載「リスク資産の複利確率」では、この連載の第一回「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(1) ~ これまでの計算式のまとめ」でまとめたように、ある投資信託(金融商品)の期待リターン(μ:ミュー)とリスク(σ:シグマ)が分かったとき、N年後の期待リターンとリスクを対数正規分布で表すことができました。

具体的には、ある金融商品の(年利ベースの)期待リターンがμ(ミュー)で、リスクがσ(シグマ)であるとき、μとσから、N年後の期待リターンとリスクは、次のように求めることを連載で導き出しました(正確にはμは期待リターン+1とする)。

まず、μとσは年率に基づいたの期待リターンとリスクですから、これを以下の式を用いて変換します。これは、正規分布を対数正規分布とみなしたとき、その対数正規分布の平均(μa)と分散(σa)を求める公式です(参考:連載:リスク資産の複利確率(19))。

μa=loge(μ)-(loge((σ/μ)2+1))/2
σa=√(loge((σ/μ)2+1))

このとき、以下の式が成り立ちます。

N年後の価格分布=e正規分布(μa×N, σa×√N)

このようにして年率の期待リターンとリスクから、対数正規分布を求めることができました(これを方法Aと呼ぶことにしましょう)。

一方で、今回の連載では、前回の記事「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(7) ~ 過去の実績を基にした確率分布の正しい式」で紹介したように、過去の実績が分かれば、それを連続複利に直して、その平均と分散から対数正規分布を求めることができました(これを方法Bと呼ぶことにしましょう)。

両者は整合しているのでしょうか?

例えば2008年のTOPIXの実績がここにあります。

1月 1,594.07 100%
2月 1,568.39 98.4%
3月 1,450.00 92.5%
4月 1,624.17 112.0%
5月 1,683.40 103.6%
6月 1,579.09 93.8%
7月 1,559.44 98.8%
8月 1,501.23 96.3%
9月 1,311.57 87.4%
10月 1,045.90 79.7%
11月 1,007.00 96.3%
12月 1,037.53 103.0%

この実績から、年率の期待リターンとリスクを求めることができます。それを方法Aに基づいて変換し、対数正規分布の式にすることができますよね。

一方で、方法Bに基づいて、過去の実績の連続複利率を求めて、その平均や標準偏差を求めることで対数正規分布の式にすることもできますよね。

この2つは全く同じものになるのでしょうか? あるいは整合性はあるのでしょうか?

実は計算してみると両者の答えは微妙に一致しません。とても近いのだけれども異なるのです。

今回は先を急ぎたいのでものすごく説明をはしょってしまいますが、なぜそうなるのかといえば、方法Aではいちど価格分布を正規分布であると見なした上で、そこから対数正規分布に変換しているのに対して、方法Bではいきなり対数正規分布を直接求めています。

このアプローチの違いが、似ているけれども微妙に異なる結果の原因であると、僕は理解しています。

ただ両者の差異はそれほど大きくありません。だから簡単に言えば、年率の期待リターンやリスクが分かっているならば(多くはこのケースでしょう)方法Aで、過去の実績が分かっているのならば方法Bで、今後の確率分布を求めればいいのではないでしょうか。

そして、両者とも金融工学で一般に言われていること「ある金融商品の連続複利率の収益率が正規分布する」を前提にして、結果が対数正規分布になる点は一致しています。この点が終始一致していたこと、そしてこのことを中心にさまざまな謎が解けたことで、僕はこれまでずっと自分なりに考えてきた多くの式や考え方が間違っていなかったのだ、という自信を深めています。

さて、これで連載の謎は全部解けたはずです。

謎は解けたし、より正確な確率分布を過去の履歴から求める方法も分かったしで、今回は短期間で、めでたしめでたしで連載を終わります。イーノ先生の次回作にご期待ください! と思いきや、今回もややこしい話が多かったので、次回総集編を書きます。

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I.金融工学

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