2010年10月30日

長期のリターンとリスクをどう計算するか?(9) ~ 総集編

この連載では、新たに登場した「過去の実績の算術平均と幾何平均は、期待リターンと中央値に一致する」という説が本当なのか? そしてそれは過去に僕が求めてきた式と整合するのか? という2つの謎を解くためにはじまりました。今回はその総集編です。

第1回の「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(1) ~ これまでの計算式のまとめ」では、過去の連載「リスク資産の複利確率」で求めた式を、もういちど確認することからはじめました。それは、ある投資信託の期待リターン(μ:ミュー)とリスク(σ:シグマ)が分かったとき、N年後の期待リターンとリスクを式で表したい、というものでした。

第2回目の長期のリターンとリスクをどう計算するか?(2) ~ 最頻値、中央値、平均値の計算」では、これから計算しなければならない対数正規分布の平均値や中央値について、それがどのようなものかを確認しています。

対数正規分布は、対数をとった正規分布、つまりe正規分布(μ,σ)と表せます。このときの正規分布の期待値と標準偏差がそれぞれμ、σのとき、その対数正規分布の平均値、中央値、最頻値は次の式で表せます。

最頻値 = e(μ-σ^2)
中央値 = eμ
平均値 = eμ+(σ^2)/2

第3回の「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(3) ~ 過去の実績の算術平均と幾何平均」で、金融商品の過去の実績があれば、そこから期待リターンと中央値は、算術平均と幾何平均で計算できる、という説を紹介しています。

例えば、過去5年間で次のようなリターンの実績を持つ金融商品があったとします。

0年目 ±0% 100
1年目 +2% 102
2年目 +6% 108.12
3年目 -3% 104.8764
4年目 +1% 105.925164
5年目 -1% 104.86591236

このとき、過去5年のリターンの算術平均は1%、幾何平均は約0.95%です。

算術平均:
0+2+6-3+1-1=5、これを5年で割って1%

幾何平均:
(5√(104.86592136)/100) -1 = 0.95477654%。つまりおおむね0.95%

いちいち対数正規分布などに変換して計算しなくとも、期待リターンと中央値ならこれだけの計算で求められるというのです。本当なのでしょうか? という問題提起。

第4回「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(4) ~ 算術平均はなぜ期待リターンなのか?」で、まずは算術平均について考えてみました。

期待値(を推定するため)の計算方法というのは、実は過去の実績の算術平均の計算方法と同一だということを説明。「期待リターン=算術平均」ということが分かりました。

第5回「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(5) ~ 幾何平均はなぜ中央値なのか? その1」と第6回「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(6) ~ 幾何平均はなぜ中央値なのか? その2」は、この連載のハイライトといっていいでしょう。

前提条件である「ある金融商品の連続複利率の収益率が正規分布する」としたとき、連続複利率をCR1~CRnで表すと、収益率は次のように表せます。

収益率 連続複利率
eCR1 CR1
eCR2 CR2
eCR3 CR3
eCR4 CR4
eCR5 CR5
eCR6 CR6
eCR7 CR7
: :
eCRn CRn

「ある金融商品の連続複利率の収益率が正規分布する」のですから、CR1~CRnが正規分布する、というわけです。ということは、収益率を示すeCR1~eCRnは、正規分布の対数をとっていますから、収益率そのものは対数正規分布していることが分かります。

さて、このeCR1~eCRnの幾何平均を求めてみましょう。こうなりますよね。

収益率の幾何平均=n√(eCR1 × eCR2 × eCR3… × eCRn

ってことは、こうですよね。

収益率の幾何平均==e(CR1+CR2+CR3+…CRn)/n = eCR1~CRnの算術平均

ところで、e正規分布(平均μ、標準偏差σ)のときには、次の公式が成り立ちます。

e平均μ = 中央値

これを念頭に置いて元の式に戻ってみましょう。収益率の幾何平均は次の式で表せました。

収益率の幾何平均=e正規分布するCR1~CRnの算術平均

つまり、

収益率の幾何平均=e平均μ=中央値

となるわけです。

第7回「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(7) ~ 過去の実績を基にした確率分布の正しい式」では、ここまでに得た知見から、上記のCR1~CRnの平均と標準偏差をそれぞれμ、σとしたときの対数正規分布の式

e正規分布(μ,σ^2)

が、過去の実績を基に将来のリターンの確率分布を示す式であることを求めました。

第8回「長期のリターンとリスクをどう計算するか?(8)~ 過去の連載と今回の連載の結果は整合するか?」では、この連載の第1回で書いた過去に求めてきた式と、この連載で扱ってきた式、どちらを使っても将来の期待リターンや中央値が求められるわけですが、この2つに整合性があるか? を考えてみています。

しかし前者では、いったん正規分布にしたものを対数正規分布に変換していることから、直接対数正規分布を求めている今回の連載での考え方と、計算上では微妙に誤差がでます。ただし、どちらも対数正規分布になるという基本的な考え方については同一だ、としました。

さて、これでこの連載は終わりにするわけですが、今回、過去の実績データから対数正規分布によって将来の期待リターンとリスクを推測する式を作るまでの方法がちゃんと分かった点が最大の収穫でしたし、そこまで自分なりにたどり着けたことはとても嬉しいですね。

それにたぶん、ここまで突っ込んで長期のリターンやリスクについて考えてきた文章というのはなかなかないと思います。しかし、これで一般的な金融工学に基づいて長期のリターンやリスクを計算する基本的な部分については、全般的に押さえられたのではないか、という気がしています。

あとはこれを応用すれば、さらにいろんなことが直感的や推測ではなく、計算によって分析できるようになるはずです。

ということで、連載はいったん区切りをつけますが、次回はその応用について書いてるつもりです。たぶん。

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K (2011/02/14 22:23:54)

今さらのコメントすみません。
本ブログの対数正規分布での期待値と中央値・
最頻値の話し、非常に役立ちます。
ありがとうございます。
株100%があぶない理由が分かりました。

すると、外国株には為替ヘッジを付けないと、
期待値は変わらなくても、中央値や最頻値が
下がってしまうのでは?という考えに至りました。
どう思われますか?
ヘッジ比率も奥深そうです。



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