2013年05月21日
優遇税率が終了する前のクロス取引は損か得か
投資信託などの運用益にかかる税金は現在のところ10%なのですが、この優遇税制制度は今年で終わり、来年からは20%に戻ります。そこで、優遇税制が終わる前にいったん投資信託を売却して10%の税金を払って、また買い戻す「クロス取引」で節税できるのではないか? という話が水瀬さんのところの記事「【お詫び】「今年中にクロス取引やっておくべき」は誤りでした。正しくは「今年中にクロス取引してはダメ」」で紹介されていました。
水瀬さんの記事では、計算した結果「ほとんどのかたはクロス取引してはダメ」という結論。「クロス取引によって節税効果が認められるのは、クロス取引後からの資産評価額が2.25倍以下の時に売却を行った場合である。」ということです。
でもなんか直感に反しますよね? 将来税率が上がるのなら、税率が低いうちにいったん税額を確定してもいい気がします。というわけで水瀬さんのところの計算を見てみると、たしかに合ってます……。
うーん。あれ? 水瀬さんのところの計算は、クロス取引した時点で、税額分を運用資産から引いてますよね。
つまり、元本が100万円で、年内にクロス取引しようとした時点で200万円に値上がりしているとします。この時点で運用益は100万円なので、税額はその10%の10万円ですよね。で、この税額分を運用資産から引いて、クロス取引後は190万円で運用を再開するという前提になっているようです。
なぜクロス取引で節税できないのか、これが理由なのだと本文にこう書いてあります「節税効果があるにもかかわらず、利益確定による課税で投資元本減少の影響を、ほとんどの場合その後投資対象がどれだけ上昇しても、取り返せないという結果です。」
クロス取引後は税額だけ投資元本が減るというルールで計算するとこうなると。じゃあ、税金分は別の財布から支払って、運用資産を減らさなかったらどうなるか。
計算してみました。
元本:P
クロス取引時点までの上昇率:X
クロス取引時点から、来年以降の将来の売却時までの上昇率:Y
(ただしX*Y>1。じゃないと将来の売却時に税が発生せず、自動的にクロス取引しない方が得になるため)
T1(クロス取引時の税額) = (PX-P)*0.1
T2(クロス取引後、来年以降の売却時の税額) = (PXY-PX)*0.2
T3(クロス取引しない場合の、将来の売却時の税額) = (PXY-P)*0.2
どんなときも税額を運用資産から引かないので、式はシンプルになりますよね。
そして、T1+T2 < T3 を満たすP,X,Yこそ、クロス取引しないときよりクロス取引した方が税額が小さい条件になります。
両辺を10倍しつつ展開。
(PX-P)+(PXY-PX)*2 < 2PXY-2P
PX-P+2PXY-2PX < 2PXY -2P
-1PX+P < 0
-X+1 < 0
1 < X
X>1
Xが1以上の時。つまり、クロス取引時にちょっとでも上昇していればクロス取引が節税になる、ということになりませんかね。ただし税金を別の財布から払って運用資産を減らさないこと、それからYの時点、将来の売却時にも上昇している、などの前提はありますが。
どうでしょう。合ってるかな。
(追記 5/21:コメントいただいているように、クロス取引しない方では、クロス取引したときに財布から出した税額分を載せていないので、ちゃんとした比較になっていないようです。言われてみればたしかにそうです。時間のあるときにクロス取引しないときに、財布から税額分を上乗せする計算もしてみようと思いますが、やっぱり水瀬さんの記事の結論が正しそうです)
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その比較だと「投資のために財布から出したお金」の額が違っているため意味のある比較になっていませんね。
クロス取引をした場合は税金を別の財布から出すのであれば、クロス取引しないケースは同じタイミングで同じ額を投資金額に追加するべきです。
言い換えると「投資元本を減らさずに税金分を払う」というのは「これから投資につぎ込めるはずだったお金を、クロス取引することによって税金として持っていかれる」という意味になります。
だから実質的には投資元本(≒投資に使える金額)が目減りしていることに変わりありません。
アルビレオさん、さっそくコメントありがとうございます。
なるほど、たしかに投資に出せるお金を税金に回している、ということになるわけですね。時間のあるときに、クロス取引しないときにクロス取引のタイミングで税分増やす、という計算をしてみようと思います。
が、どうやらやっぱりクロス取引はしないほうがいいという水瀬さんの結論は正しいのですね。
今のアベノミクス相場が続けば別ですが、売却時に資産評価額が2.25倍を超えているなんてことはそんなに多くなさそうに思うのですが...
もちろん将来を予想することは不可能ですが、クロス取引の方が有利な場合が多いのではないでしょうか。
ちょっとだけツッコミ入れると
> ほとんどの場合その後投資対象がどれだけ上昇しても、取り返せない
どれだけ上昇しても、ではなくて、上昇すればするほどクロス取引による元本減少が効いてくる、ってことです。
来年以降の、運用終了までの上昇が2.25倍以下ならクロス取引した方が得なわけですから。
この運用終了まで、というのが曲者で、自分は運用を続けるつもりでも投信が運用終了してしまえばやっぱりそこで税金を取られて運用元本が減ってしまいます。
ただ、クロス取引すると
・信託留保額とか、ノーロードでないと手数料を払うことになる。
・もし来年以降相場が下落して逆に損が出た場合に、今年払った税金が払い損になる。
という問題もあります。
結局、将来の資産価値に対数正規分布を想定するなどして期待値を計算しないと、どっちが得かは分からないですね。
期待リターン通りに増えたとしても、積立投資で2.25倍に増えるまでに何年かかるのやら(笑)
また、両者とも運用期間もリバランスも全く考えてませんね。
それに、税率が来年以降20%になる事は確定してますが、また10%戻らない事は確定してません。
よって、今年中のクロス取引が損か得か、投資を止める時まで分からないですよ。
リンクさせてもっらているご挨拶もかねて、コメントさせていただきます。
クロス取引のシュミレーションに自分の取り引き状況を当てはめて視覚化してみました。
↓
http://masuitousi.blog.fc2.com/blog-entry-523.html
自分はとりあえずクロス取引しないことにしましたが、未来の税制がどうなるかなんて誰にもわからないですよね。
今後とも勉強させていただきます。
お邪魔しました。
いつも楽しく拝見しております。
不確定の変数が多いので、難しい問題ですね。
本家イギリスISAのように減税期間が恒久化されればクロス取引のメリットはあると思います。
確か、イギリスもISA導入当初は10年間の時限措置でしたが、10年たつ前に恒久化されたようです。
日本においても恒久化される可能性があるので、100万円の枠は使っておいたほうが良いかもしれません。
新税制のNISAを利用する場合だと勘違いしていたようです。
他での損失を売却益と相殺する場合以外は、クロス取引にメリットはないのは明らかだと思っていました。
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